だが、人生の天井が見え始めている俺にはここも刺さるのだ。なんとか食っていける仕事も、ひとまず雨風をしのぐ住まいもあるが、このままたいしたことも起きず or 起こさずに年老いていくんだろうという諦念や虚無に近い安穏。「これでいいんだろうか……」「なにかやっても周囲に迷惑を掛けるだけ……」といった逡巡がトム=マーヴェリックの場合は薄い。
さらに敵地で撃墜されるも、相手側の基地からF-14を奪って脱出してみせ、おまけに、追ってくる第5世代戦闘機Su-57まで倒してしまう。天才とはいえロートル枠であるパイロットが、これまたロートル機であるF-14に乗り込んで最新鋭機とやりあう姿にアガらない中年なんているだろうか。
しかもF-14は、前作でマーヴェリックやアイスマンが乗り込んでいた戦闘機。韻を踏んだノスタルジー喚起と中年以降へのエールが融合した見せ場に、どうにかなりそうだった。
劇中、上官から「これからは無人機が主流となってパイロットはいらなくなる」と言われたマーヴェリックは、「その時は来るかもしれない。でも、それは今日じゃない」と答えている。
“私物”の戦闘機が登場…ラストシーンの意味
本作でトムは、8Gもの重力加速度に耐えながらF/A-18の実機に乗り込んで撮影を敢行。2023年公開予定の『ミッション:インポッシブル デッドレコニング PART ONE』では、スタントを使わずにノルウェー・ヴェストラン地方の最北部ムーレ・オ・ロムスダールにある山の断崖絶壁からのバイク・ジャンプをやってのけている。
「その時は来るかもしれない。でも、それは今日じゃない」は、7月に60歳になるトム・クルーズの所信表明であり、本作の大きなテーマのひとつなのであろう。
冒頭でマーヴェリックが愛でるように整備していた第2次世界大戦時の戦闘機P-51マスタングに乗り込み、大空を舞うラスト。数々の戦闘機が登場する『トップガン マーヴェリック』のなかでも、とりわけP-51マスタングだけが優雅さを際立たせるように飛ぶ姿が捉えられている。P-51マスタングは運用されたのは1942年、今年で80歳の戦闘機。劇中で使われているP-51は、実際にトムが愛機として所有しているものだ。
このラストシーンも、「80歳になっても引っ込むつもりはない」という未来に向けたトムの所信表明に違いない。
(配給:東和ピクチャーズ)