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「装備をつけろ! 準備できしだい出動する!」

 正午になってやっと小ぶりになったが未だ出動の機会はなかった。銃の手入れが終わり、手持無沙汰になった一番若いジェイナが皿がうずたかく積みあがったせまいキッチンで目玉焼きを作ってくれた。皆が各々パンを片手にこれが昼食となった。

男だけの小隊宿舎。食材や食器が乱雑に並べられていそうだが、意外にも清潔であった 撮影・宮嶋茂樹

 13時過ぎ、ユルゲンが転げるように2階から駆け降りてきた。

「装備をつけろ!準備できしだい出動する!」

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 ええ? まだ降ってるやん!

 全員が命令になんの疑いもなく防弾チョッキを背負いだし、機材や武器をいれたスーツケースをクルマに運びいれた。ユルゲンはこの日初めて使うのか新品のキャメルバック(背負い水筒)を背負う。カメラ2台しか機材のない不肖・宮嶋のナリを見てマックスが怒鳴る。

「それなら森で目立ち危険だ! 黒いチョッキしかないのか?」

「ポンチョ(雨具)も黒いんだが……」

「それじゃあチョッキの上からこれを着ていろ」

 わたされたのは濃緑のポンチョだった。

 命令がでてから20分足らずで全装備を搭載し、全員が装甲車数台とニッサンのRV車に乗車完了した。敵もこの雨で油断していると、指揮官のアダムが判断したのであろう。

宿舎から最前線までの道中にウクライナ軍の攻撃で大破したロシア軍の車両が取り残され、錆びるに任されていた 撮影・宮嶋茂樹

 コンボイは数十分、ロシア軍の砲撃で穴だらけになった舗装道路を進んだあと、なんの目標物もないせまい交差点から脇道にはいった。

 そこから先は森林地帯を進む。道らしい道もない。真っ黒な土地は肥沃で平時なら多くの農作物に恵まれることであろう。

 途中打ち捨てられたロシア軍のT-72戦車や軍用車両の横を通り過ぎる。ハリキウ州に侵攻したロシア軍は首都キーウに侵攻した部隊と違い、白い文字で「V」でなく、おなじみ「Z」の文字を敵味方識別のため描いていた。

ハルキウ市にはソ連時代から連邦内最大の戦車工場があったため、ロシア軍と同じ武器が多い。そのためウクライナ軍は国旗の色から青や黄色のテープを将兵の車両に巻いた。対してロシア軍は「Z」の白文字を車両に描き識別した 撮影・宮嶋茂樹

 それにしてもほんとにこの方向なのか? グーグルマップを必死にのぞくもまわりに目標となる物は森林しかないのである。それに人影が全く見えない。

「マインフィールド(地雷原)だ」

 我々のクルマのハンドルを握るスラバがつぶやく。そうである。人影が見えないのはロシア軍の仕掛けた地雷だけでなく、再度のロシア軍の侵攻に備え、このあたりにはウクライナ軍も地雷を埋めているのである。

 ちなみに日本も批准したオタワ条約(対人地雷禁止条約)には大型の対戦車地雷は含まれておらず、我が自衛隊も当然大量に保有している。