ロシアによるウクライナ侵攻からすでに3ヶ月が経過した。戦前の予想を覆すウクライナの善戦に対し、当初は米国が供与した携行型対戦車ミサイル「ジャベリン」や携行型対空ミサイル「スティンガー」が注目されてきたが、この1ヶ月ほどはこれも米国が供与した榴弾砲「M777」に対する報道が増えている。
M777はどのように報道で語られたか? もっともM777を「推して」いた報道は、5月11日付のニューズウィーク(日本版)の記事だろう。そこでは「ロシアとの戦いも引っくり返す『ゲームチェンジャー』になるかもしれない」とまで書いており、それに影響されたのかM777を高く評価する言説もネットで見かけた。
ウクライナでの戦争において、M777はゲームチェンジャーになるのか? その結論はひとまず置いておくが、別の点について自分の考えを述べたい。M777を含む榴弾砲という兵器は、過去の戦争において長らくゲームチェンジャーであったのだ。ここではウクライナにとって榴弾砲がなぜ重要か、その歴史的位置から近年における立ち位置について紹介したい。
20世紀、もっとも兵士を殺傷した兵器
20世紀に人類が経験した2度の世界大戦、その両方でもっとも多くの兵士を殺傷した兵器はなんだろうか? 銃だろうか、それとも航空機の爆弾だろうか。答えは「砲」だ。
英グリニッジ大学名誉教授のクリス・ベラミー氏によれば、20世紀の主要な戦場でもっとも兵士を殺傷したのは、砲を操る砲兵だという。第1次世界大戦の西部戦線では英軍の死傷者の58%が砲弾によるもので、第2次世界大戦の北アフリカ戦線ではその比率は75%にまで達したという。朝鮮戦争では米軍の死傷者の60%近くが砲弾によるもので、これらの数字からも砲が戦場で破壊をもたらしていたことがわかるだろう。
また、1991年に勃発した湾岸戦争では、巡航ミサイル等の精密誘導兵器による攻撃が強調されていたことを記憶されている方も多いかもしれない。1カ月半に渡る空爆と誘導兵器による攻撃の後、地上戦で猛威を振るったのが砲兵だった。米軍は846門の榴弾砲と189両の多連装ロケットシステム(MLRS)を送り込み、進攻の開始に先立って大規模な砲撃を行い、イラク軍陣地や砲兵を制圧するなどの活躍をしている。