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 なお、この時のエピソードとしてよく言及されるのが、米軍のMLRSの射撃がイラク兵から「鋼鉄の雨」と恐れられたというものだ。このエピソードは、米軍の公式文書にもしばしば登場する。ところが、2020年のニューヨーク・タイムズ紙の報道によれば、これを裏付けるイラク兵捕虜の証言記録は存在せず、「鋼鉄の雨」自体は以前から米兵自身が呼称していたと伝えており、神話である可能性が高い。

 新兵器の活躍は誇張され気味であるが、同様のことが今回の戦争でもジャベリンなりドローンなりM777といった注目兵器で起きているかもしれない。

ウクライナの戦争は砲兵中心の戦いへ?

 ウクライナに話を戻そう。ウクライナは戦前から各国に対して兵器の供与を求めているが、ゼレンスキー大統領ら高官の発言を見ると、最近になるほど砲兵システムを求める発言が増えている。現にSNSに出回るウクライナの戦場画像が、当初は戦車や車両を撃破していたものが多かったが、ここ最近はドローン空撮による砲撃で穴だらけの土地を見る機会が増えてきた。

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 安全保障アナリストのミヒャエル・ホロウィッツ氏は、穴だらけの戦場の写真を前に、砲兵中心の戦いが今後も続くだろうと分析している。

安全保障アナリストのミヒャエル・ホロウィッツ氏によるツイート

 戦争で双方に決定打を欠いて戦線が膠着すると、互いに陣地を構築してにらみ合い、砲戦が続く例は多い。こうなるとモノを言うのが砲の射程、威力、そして数であり、ロシア軍はこの点において世界でも屈指の能力を有する。ウクライナ側が砲兵火力の増強を求めるのは無理もないだろう。

ヘリ輸送を目的に造られたM777

 アメリカはジャベリンなどの歩兵携行兵器は早くから供与したが、戦車や砲といった重装備の供与に関しては慎重だった。それでも4月にはM777榴弾砲18門の供与を発表し、更に72門追加している。

 M777は汎用ヘリコプターで空輸可能な超軽量砲として2000年代に実用化されたもので、榴弾砲としては新しい方だ。しかし、軽量化や省力化が進んだ点では使い勝手がいいと思われるが、射程距離といった砲としての基本性能は1960年代に西欧3カ国が開発したFH70と差はない。

自走する陸自のFH70(筆者撮影)

 汎用ヘリによる空輸が可能な点がM777最大の特徴だが、陸に降りてしまえば移動に車両による牽引が必要で、前線でのヘリコプター飛行に制約のある現状のウクライナでは牽引砲として使うしかなく、最大のメリットが活かせない。

 また、FH70等では、陣地転換を容易にするためにエンジンを搭載し、自力で短距離移動できるようになっているが、M777にはその機能もない。陣地転換に時間がかかれば、それが戦場で問題になる可能性もある。