演習で牽引砲が不利な理由とは
なぜなら、敵の対砲迫レーダーに飛翔中のこちらの砲弾が捉えられると、どこから発射されたのかすぐにバレてしまう。このため、砲兵は短時間射撃しては移動を繰り返し、敵の反撃をやり過ごす必要がある。そのためには迅速な移動が必要不可欠になるが、自走砲に比べて牽引砲ではどうしても移動に時間がかかる。
例をあげると、2019年にアメリカのナショナル・トレーニング・センター(NTC)に陸上自衛隊の部隊が派遣され、神奈川県の面積に匹敵する広大な演習場で実戦に近い演習が行われた。この演習の際、米軍の牽引砲装備の砲兵部隊が早期に戦力を失ったのに対し、自衛隊の特科部隊(砲兵)の99式自走りゅう弾砲は対抗部隊の砲兵2個中隊をほぼ壊滅させた、と演習を取材した防衛ジャーナリストの芦川淳氏は伝えている(『軍事研究』2019年11月号)。
この時、99式は3日間だけで200回近く射撃と移動を繰り返し、敵砲兵の反撃をかわしては撃ち返していたという。逆に言えば、それだけ頻繁に移動を繰り返さなければ、砲兵は生き残れないのだ。
自走砲のセールスで好調なのは韓国のK9
こうした事情もあり、近年は牽引砲より自走砲が各国で採用が進んでいるが、それには米国製自走砲から脱却したいというニーズもある。意外に思われるかもしれないが、現行の米軍の自走砲は世界的にみれば古い部類に属する。
米軍のM109自走榴弾砲は、原型が1960年代に生産が始まったもので、後継とされたクルセイダー自走砲の開発がキャンセルされたため、約60年経った今でも改良しつつ使われている。冷戦時代に多くの西側諸国で配備されたM109も老朽化したため、後継としてイギリスはAS-90、ドイツはPzH2000(これもウクライナに供与される)を開発、配備している。
こうした中、M109後継製品のセールスが好調なのが韓国のK9だ。ドイツのPzH2000も海外輸出が行われているが高価なため、M109より新しい自走砲が欲しい国やNATO規格に移行したい国にとってはK9が有力な選択肢となっている。すでにトルコやフィンランド、ノルウェー、オーストラリア等と契約が交わされている。