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 高性能だが高価な装軌式(いわゆるキャタピラ)以外にも、タイヤ走行の装輪式自走砲も2000年代以降、各国で開発されており、自衛隊で調達が始まっている19式装輪自走155mmりゅう弾砲や、ウクライナにも供与されたフランスのカエサルなどがある。これまでにあげた自走砲は皆、M777よりも射程が長い(AS-90は改良型)。

M777を発射する米海兵隊(米国防総省より)

ウクライナ側の勝利には重装備が不可欠

 ウクライナも本音では、より長射程・高威力の兵器が欲しいのだ。ゼレンスキー大統領は(日本時間)5月9日に行われたG7首脳向けの演説で、M142 HIMARSとM270 MLRSを型番指定で供与を要請している。いずれも榴弾砲より長射程の多連装ロケット砲だが、国境から離れたロシア領土も攻撃可能なため、米国は供与には慎重だったものの、供与への準備を始めたと報じられている。ただ、MLRSで発射されるロケットは長射程で強力だが、高価で数が少ないため、安い砲弾を持続的に撃ち込める砲の価値は大きい。

 ウクライナの戦争では、ジャベリンやスティンガー、ドローンといった兵器ばかり強調され報道されているが、ウクライナは一貫して重装備の供与を求め続けている。3月31日に行われたオランダ議会向け演説で、ゼレンスキー大統領は「スティンガーとパンツァーファウスト(携行型対戦車兵器)は戦いを持ち堪えさせることはできます。しかし、勝利のための武器ではありません」と述べ、航空機、戦車、中距離防空システム、長射程の対戦車ミサイル、砲弾といった重装備の供与を訴えている。

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 当初は個人で携行できる兵器ばかりウクライナに供与されていたが、M777などの重装備の供与も始まりつつある。ここからより強力な自走砲の供与が行われるか注目されるが、現在のところドイツやオランダがPzH2000、フランスがカエサルの供与を発表したくらいで、その数は決して多くない。

 砲戦では数が重要となるため、少しばかりの質的優勢ではロシアの優位を覆すのは困難と考えられる。ウクライナが劣勢となった場合、各国は重装備のさらなる供与を迫られるかもしれない。

 本稿執筆後、数は少ないもののポーランドやスロヴァキアによる自走砲の供与が報道された。今後も榴弾砲、自走砲の供与は一つの焦点になるだろう。