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2022/06/24

source : 週刊文春出版部

genre : ニュース, 社会, 企業, 経済

「ジン、先日の記者会見で、このままではうちは持たないと確信したよ。もう行動しなければダメだと思う」

 松本の話に驚いたジンは、松本が旗幟を鮮明にしたのは「あの場面」ではないかと思った。

「『倍返し』、いや『100倍返し』かな」

 取締役辞任という電撃発表を終えて控室に戻ってきた潮田は、メディアに対して瀬戸への思いを語ることができたという満足感からか、山梨にこんなことを言った。

「山梨さん、会見はどうだった? 臨時株主総会を請求されて、瀬戸さんには株主提案の取締役候補を発表されてと、向こうのやりたい放題だったけれど、赤字決算の原因であるペルマの責任は彼にあると言ってやった。これで『倍返し』だろう。いや『100倍返し』かな」

 山梨はぼそっと答えた。

「潮田さん、ちょっと喋りすぎですよ」

 2人の会話を横目で見ていた松本とジンはやり取りの意味が分かった。巨額の赤字決算を計上することになったのはペルマが主因で、それは瀬戸の経営が無策だったからである。瀬戸をCEOに招き入れたのは自分だから、その任命責任を取って自分は取締役もCEOも辞める。会見で潮田はそう言ったが、IRJは事前の打ち合わせで「ペルマを瀬戸さんのせいにするのは無理がありますね」と釘を刺しているのを2人は見た。

 しかし潮田は忠告を無視して持論を展開し、「100倍返しをしてやった」と満足気に話した。

 会見での潮田発言は致命的で、何としても止めなければならなかったはずだ。案の定、同日夜のぶら下がりで瀬戸は反撃している。もっともあの場面で潮田を止められたのは山梨だけで、自分たちはどうしようもなかった。

 その山梨は会見中、潮田の話を黙って聞くばかりで、今度も「喋りすぎですよ」と窘めるだけ。肝心の場面でも山梨の振る舞いは昨年10月の会見やビジネスボードミーティングと同じで、潮田が経営を誤った方向に持っていった時の抑止力にはならない。これではLIXILグループの未来はないだろう。

〈松本さんはあの時、自分と同じ思いを抱いたのだろう〉

 ジンに「もう行動しなければならない」と言った松本はこう続けた。

「さてどういう活動をするかね」

「松本さん遅いよ。4人目だよ」

 ジンはそう言って高笑いをしながら松本にビジネスボードレターの構想を語った。松本は黙って頷いた。

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