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 すかさず取り囲んだ記者に潮田の取締役退任について「臨時株主総会を回避するためではないですかね」と感想を述べるなどしていると、案の定、「潮田さんは『瀬戸さんからペルマの経営状態について報告がなかった』と言っていましたが……」という質問が出た。

「そうおっしゃったみたいですが、事実と違います。私が手に持っているのがその証拠で、当時の報告書の一部です。皆さんにお見せしたいところですけれど、内部情報が含まれているから見せられない。残念です」

 瀬戸はそう言いながら、数十枚に及ぶA4サイズの紙の束をくしゃくしゃに握りしめ、「悔しさ」を演出した。

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LIXILグループ(現LIXIL)社長兼CEO(最高経営責任者)の瀬戸欣哉氏 ©文藝春秋

潮田が10日足らずで退任を表明した理由

 潮田がメディアの取材に応じてから10日足らずで退任を表明することにしたのはなぜか。瀬戸は調査報告書をまとめて以降、LIXILグループからは手を引いた西村あさひ法律事務所に代わって再び前面に出てきた森・濱田松本法律事務所か、株主総会をどう乗り切るべきかというアドバイスなどをするコンサルタント会社のアイ・アールジャパン(IRJ)ホールディングスの入れ知恵だろうと考えた。

 機関投資家と伊奈は3月20日に臨時株主総会の開催を請求し、そこでの潮田と山梨の解任を求めたが、潮田は当初、実際に開いたところで賛成は少数にとどまると踏んでいたフシがある。しかし時間が経つにつれて雰囲気は変わり、解任が現実味を帯びてきた。瀬戸は、潮田にそうした情勢変化を伝えたのも、取締役を退任するという「ウルトラC」を考えたのも森・濱田松本法律事務所かIRJと考えた。

 会見で潮田は「6月の株主総会で会長兼CEOも辞めるが、その後、アドバイザーをやってくれと言われれば考える」と言い、山梨は「株主総会以降は取締役にはならないが、許されるのであれば執行に専念したい」と含みをもたせた。つまり山梨は潮田の後任となる会長兼CEOに就く用意があり、潮田は山梨の相談に乗るのはやぶさかでないと言った。

 潮田は大掛かりなことは考えるが、細かなことには関心を持たない。一方の山梨は前年11月以降、LIXILグループのCOOとして日常的なオペレーションの舵取りをするようになったが、大事なことは必ず潮田に相談していると聞いていた。2人が会見で断定的な物言いをしていないから決めつけるわけにはいかないが、取締役ではないCEOと相談役が経営する、極論すれば「6月以降、肩書きは変わるが業務執行体制は変わらない」という前代未聞の人事を2人が考えつくとは思えない。

 いずれにせよ4月18日の記者会見は事態を大きく変えた。潮田や山梨にとって臨時株主総会を開く必要がなくなったことはプラスの局面転換だっただろうが、一方、その時の2人が予想できなかったマイナスの局面転換もあった。その1つはCFOの松本が態度を一変させたことだ。

 説明が必要だろう。瀬戸を陰に陽に支えたLIXILグループの経営幹部は何人もいたが、潮田や山梨にとって明確な敵は株主提案の取締役候補になった吉田と広報担当役員のジン、それに瀬戸チルドレンともいえる金澤ぐらいだった。

 株主提案の取締役候補となった吉田は言うまでもない。広報担当役員のジンは昨年10月に瀬戸が事実上解任されたことについてメディアや株式市場の反応をレポートにまとめて取締役会に提出、潮田の逆鱗に触れた。その後、広報業務は潮田や山梨がIRJと同じタイミングで雇った危機管理広報コンサル会社のパスファインドが担うようになるという憂き目も見た。潮田や山梨はLIXILグループのデジタル戦略を支えるCDOの金澤に業務上では頼ったものの、瀬戸に誘われてLIXILグループ入りしている以上、潮田や山梨にとって味方とは言えない。

 やや脱線するが、金澤については余談がある。瀬戸は4月5日に記者会見を開いて以降、メディアからの取材依頼を積極的に受けたが、窓口となったのは森明美という女性だった。瀬戸や吉野が作ったプレスリリースの最後には連絡先として必ずこの森の名前と携帯電話の番号が記されていた。