「うちに入院している対象者は、親や近隣住民を殺した殺人犯や、自宅に放火した人ばかりです。マスコミに報道されたような有名な事件の犯人もいますよ。彼らによるテレビなどの器物の破壊、コーヒーやつばをかけてくることなどは日常茶飯事。私たちの身体にも殴る蹴るなど、直接危害をくわえてくる人もいます」

 そう語るのは、精神疾患などを中心に治療を行う大規模医療センター「X」の関係者Aさんだ。同医療センターはアルコールやゲームの依存症治療でも全国的に有名だが、厚生労働省によると、同医療センターの医療観察法の対象者の病床は全国的に見ても多い。

大規模医療センター「X」

年間300人超が「心神喪失」で不起訴や無罪に

 対象者とは、医療観察法により「心神喪失」や「心神耗弱」が理由で不起訴や無罪が確定した元刑事被告人のことだ。「心神喪失」とは、統合失調症など精神障害の影響で善悪を全く判断できないか、判断したとおりに行動することが全くできない状態を指す言葉で、同様の原因で判断力などが著しく低い状態を「心神耗弱」という。

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 過去の重大事件を振り返ると、2015年9月に埼玉県熊谷市の民家に相次いで侵入し小学生2人を含む6人を殺害した男は、1審の裁判員裁判では死刑判決だったが、2審では「心神耗弱」と認められて無期懲役となり、最高裁で同罪が確定した。

 今年に入っても同様の判決が下っている。2020年1月に神奈川県大和市で生後1カ月の長男に暴行を加えて死亡させて傷害致死罪に問われた母親(39)が、2022年2月24日に沖縄県宮古島市の自宅で5歳と3歳の息子を殺害し殺人罪に問われた母親(40)が、心身耗弱から無罪となった。

 令和3年版犯罪白書によると、令和2年に裁判で心神喪失と認定されて無罪になったケースは5件だが、裁判前の鑑定留置で心神喪失などと認定され、不起訴となったケースなどを含めると、年間で300人を超えている。

 大手紙司法記者が解説する。

大きな改正もなく続く「医療観察法」

「医療観察法が施行されたのは2005年。8人の児童らが犠牲になった大阪教育大付属池田小学校の児童殺傷事件の宅間守元死刑囚(2004年執行)がきっかけでした。彼は事件前にも10回以上も傷害事件などで逮捕されながら精神状態を理由にすべて不起訴になり、一般社会に野放しにされていたんです。彼を施設に入れるか、しっかりと治療できていればあんな大惨事は起こらなかったと急ピッチで法整備が進められたわけです。

 対象者の人権や治安の維持などさまざまな問題が当初から指摘されていた医療観察法ですが、蓋を開けてみれば施行から15年以上、大きな改正もなく続いています」

 重大な罪を犯しながら、罪に問われなかった元被告人たち。現在、彼らの治療はどのように進められているのか――。そうした取材の過程で話を聞けたのが、前出の医療センター「X」に勤めるAさんだ。

 5月25日、同センターに管轄する厚労省が監査に入っている。Aさんは監査の理由について、「長期の隔離を問題視してのことだったのではないか」と推察する。