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マリーンズの“声出し番長”に名乗りを上げるべき男

 実際、その大下が1号弾&サヨナラ打でヒーローとなった昨年9月7日のほっともっとフィールド神戸で、マリーンズは首位陥落。あの一戦で、潮目は大きく変わった気がします。

 お世辞にも品がいいとは言えない、もっと端的に言えば「ガラの悪い」彼の声は、ただ観ているだけのぼくらにさえ、かなりストレスフルだったわけですから、グラウンドでは大いに味方を鼓舞し、相手にプレッシャーをかけるものだったことは想像に難くありません。

 育ちは「修羅の国 スペース」と打つだけで、上位にサジェストされてくる福岡・北九州。そんな土地柄にもかかわらず、ヤンチャすぎて地元の高校には進めなかった、なんていうヤンキー魂あふれる経歴まで持ち合わせている彼は、いかにも優等生然としたマリーンズの若手たちとは、対極の存在。

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 中村奨吾を筆頭に、マジメでひたむき、キャプテンシーにも秀でるバランス型の逸材たちを好んで獲得してきたここ数年のマリーンズのドラフト傾向から言っても、大下のような“異端児”は、おそらく事前の候補にすら名前は挙がっていなかったことでしょう。

 ですが、彼のようなアクの強い“異物”の混入は、時として爆発的な推進力をチームという組織にもたらすもの。優等生ばかり出てくる学園ドラマが決しておもしろくはならないように、“腐ったミカン”加藤優の存在をなくして『3年B組金八先生』は語れないように、てんでバラバラで強烈な個性がそろってこそ、そこから生まれるドラマもよりエモくもなるものだと思うのです。

 もちろん、コンプライアンスが叫ばれるご時世ですから、懸念されるリスクをあらかじめヘッジしておくというのも、組織の戦略としてはすこぶる正しい。親会社がお菓子メーカーということを考えれば、イメージが大切なのも重々承知しています。

 ただ、古くは“カネやん”金田正一が率い、数多の武勇伝をもつレジェンド・張本勲も晩年にプレー。前出の有藤や落合博満、愛甲猛といった球史に残る錚々たる“異端児”たちが主軸を務めてきたのがロッテというチーム。少しぐらい“我”の強いヤンチャな面々を引き入れたって、“らしさ”は十二分に発揮できると思うのは、きっとぼくだけではないはずです。

 去年フラッとヤクルト戸田球場まで観に行ったイースタンの試合でも、誰より声を響かせていたのは当時の福浦和也・2軍監督だったりしましたし、先日行ったCAR3219フィールドでの西武戦でも、声量は相手ベンチのほうが、明らかに上。ここ最近の1軍の試合でも、負けが込みはじめると目に見えてトーンダウンしてしまう覇気のなさが気になります。

 だからこそ、次代を担う若手たちには、周囲を気にせず“我”をもっと出してほしい。

 大下のように、とまでは言わないまでも、井口監督が思わず二度見するぐらいの声を張り上げたって、褒められこそすれ、評価が下げることはおそらくない。若手も数多控えるベンチ内で、すでに30歳と中堅の三木亮を「陰のMVP」「ムードーメーカー」の地位に安住させている場合ではないのです(もちろん、三木にだってもっとスタメンで試合には出てほしいわけだけど……)。

 そういう意味でも、誰よりもまずマリーンズの“声出し番長”に名乗りを上げるべきは、小・中・高・大と各カテゴリーで主将も務めたキャプテンシーの持ち主でありながら、大下的なヤンキー魂も人一倍持ち合わせているあの男。Googleの画像検索でも、「ガキ大将」「天才」などと刺繍されたイケイケの卒業式写真がヒットしてしまう彼しかいないと、個人的には思っています。

 そう、大阪桐蔭で同期の田中誠也(現・大阪ガス)をして「(入寮時から)一人だけ眉毛キャンキャンやった」とも言わしめた福田光輝さん、キミのこと。

福田光輝

 今季はイースタンでも打率2割未満とやや苦しんでいるようですが、そこで立ち止まって思い悩む必要は全然ない。むしろいまは他のことを度外視してでも、もっと自分色を全面に押しだしてギラついていくべきだと、強く思います。

 プロである以上、結果で証明するのも、もちろん重要なことだけど、プロだからこそあらゆる手段でアピールしてナンボ。円陣の真ん中で「気合入れていくんで、夜露死苦!」みたいなゴリゴリの声出しをして、即座に“パテレ行き”になる、なんてのも立派なプロの仕事です。

 奇しくも、大下と福田はともに97年11月生まれの同級生で、背番号も同じ「40」。いまは2軍で励む2人が、そう遠くない未来に両軍ベンチから声の応酬を繰り広げる日を、ひそかに期待しています。

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