2022年シーズン、パ・リーグの盗塁王争いを独走しているのがプロ3年目の髙部瑛斗外野手だ。昨年までの2年間は通算で38試合に出場して4盗塁。今年は開幕からスタメンに抜擢されると大ブレーク中である。そんな背番号「38」の人物像に迫る。
「もし最下位になったら野球をしよう」
子供の時の特技は木登り。公園の木や電柱など高いものを見つけると登らずにはいられない性格だった。「多少、大きな木でも、てっぺんまで余裕で登っていた」と髙部。高いところが大好きで運動神経も抜群だったようだ。ちなみに鉄棒も得意。グライダー(ひこうき飛び)や空中前回りは「何度でも出来る」と自負する。またサーフィンも得意。小学校時代には神奈川県茅ケ崎市の海岸で波に乗っていたこともある。ただし一方で水泳は得意ではなく基本的には泳がないという。
野球以外の球技も苦手というから不思議だ。サッカー、バスケはボールをコントロールできない。本人曰く「ボクのスピードにボールがついてこれない。いつの間にかボールが後ろにある」と笑う。50メートル5秒8の自慢の足は野球でのみ生かされている。
ただ、そんな足も決して元々、速い方ではなかった。野球を始めたキッカケも足が理由。小学校2年生の運動会での徒競走で「もし最下位になったら野球をしよう」と父親と約束をしたところ、まさかの最下位となり約束通り3年生から始めることになった。だから好きだったというより父親にやらされて始めた。
その後、自宅周辺にある100メートルほどの急坂を毎日のように走らされた。走るモチベーションがあった。「父親に目標タイムをセットされていて、そのタイムを切ったら野球を辞めてもいいと言われていた。だから頑張った」と髙部は懐かしそうに振り返る。小学校から中学校まで毎日、走った。目標タイムが切れたのは中学校の時。しかし、もう遅かった。「そのころにはもう野球にのめり込んでいて野球をやめるという選択肢はなくなっていた」と話す。
マリーンズのアスレチックトレーナーも「昨年、盗塁王を獲得した和田(康士朗)選手はバネがある選手。一方で髙部選手に関しては、バネはそこまで特筆すべき感じではない。陸上選手のような走りではなく、本当に坂道を一生懸命に走っているような走り方。やはり子供の時に毎日、坂道を走って、あの走り方と推進力が生み出されたと考えるべき」と驚く。
中学時代に足が速くなり、メキメキと才能を発揮しはじめ、地元の野球塾に通い始める。そこで指導を受けたのが現役時代に1904安打を放った松永浩美氏とマリーンズOBでもある鮎川義文氏。2人から受けた打撃指導が髙部の打撃の原点を作りあげる。「お二人に今の自分の野球の基本を教えてもらったと思っています」と感謝をする。
「どうしてもネガティブになってしまうところがあるので…」
プロでは福浦和也コーチと出会い、熱血指導を受けている。「自分のいいところも、悪い癖などもすべて知っているのでいつも指摘してくれる」と全幅の信頼を寄せる。福浦打撃コーチも「身体能力が高い。打って守って走れる。バットコントロールがいいから、当てる能力は目を見張るものがある。将来的には最多安打を打てる人材じゃないかな」と高い期待を寄せる。
現在は1番荻野貴司外野手で2番髙部の形が定着している。12球団でもトップクラスの機動力を誇る1、2番コンビが完成した。髙部はコンビを組むベテラン切込み隊長の背中を追いかけている。
「プレースタイルはもちろん。人間性。野球に対する取り組み方のすべてを尊敬している。憧れの大先輩。1、2番を組ませていただいて本当に光栄です」と話す。