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過去ワーストレベルの弱肩。それでも巨人・ウォーカーに怒りや失望を感じない理由

文春野球コラム ペナントレース2022

2022/07/18
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子育ての感動を思い出す、たどたどしい歩み

 初めてウォーカーのキャッチボールを目撃してから約5週間後の5月下旬。スローイングの現在地を確かめたく、再び甲子園球場のレフトスタンドに陣取った。一選手のキャッチボール観戦が主目的で球場を訪れたのは初めてだった。

(え!? 上達してる! ワンバウンドしたり、抜けて逸れたりするボールがなくなってる! 山なりの軌道は相変わらずだけど、前に見た時よりはボールに力が伝わってる!)

 現在は社会人となった2人の息子を育てる過程で、この日と同じような感動を幾度も味わった気がした。

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 1週間程度の出張を終え、家に帰ると「寝返りが打てるようになっていた」「ハイハイのスピードが上がっていた」「つかまり立ちができるようになっていた」「自力で数歩歩けるようになっていた」「しゃべれる単語が増えていた」「補助輪なしで自転車に乗れるようになっていた」「キャッチボールをしたら投げるボールが少し力強くなっていた」……。ささやかではあっても、確かな成長を実感する都度、湧き上がった懐かしさを覚える感動が体を包んだ。

 すぐ後ろに座っていた大学生と思しき阪神ファン2人組はウォーカーのキャッチボールを見て、

「なんやあの山なりのボール」

「プロの中で一番ひどいんちゃう?」

 などと話していた。

(相対評価で見ればそうなるだろうし、実力と結果がすべてのプロの世界はそうあるべきなのかもしれない。でもウォーカーのスローイングは絶対評価で見てあげたくなる……。こんなにもスローイング面で伸びしろを残しているプロ野球選手がほかにいるか?)

 そんなことを考えていた。

 約1か月後の6月28日、山形での中日戦。ウォーカーはレフト前ヒットで本塁突入を試みた二塁走者をノーバウンド返球で刺すことに成功した。捕球位置は浅く、軌道は山なりではあったが、春先の時点では想像し難い補殺劇だった。テレビ観戦していた私と妻は涙を流さんばかりに喜び合った。

「ちょっと泣いてしまった。それくらい嬉しかった」と明かした亀井コーチは次のようにコメントした。

「きれいな送球ではないですし、今の球だけ見たら『なんだあの球』って思うかもしれないですけど、最初から見てる僕からしたら、やっぱり感動もんやった。最初を見た人はわかると思う。これが成長なんだと。彼の努力の賜物です」

 原辰徳監督は言う。

「決して守備はうまいとは言えないけれど、本当に毎日毎日、亀井コーチと熱心に練習をしている。8月くらいにはさらにうまくなっていると思う」

 伸びしろだらけの努力家、アダム・ウォーカーから目が離せない。

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