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あのころハマスタで果たせなかった夢を…大田泰示とベイスターズの不思議な縁

文春野球コラム ペナントレース2022

2022/07/19
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大田の全身に横浜ブルーの血が完全に通い渡ったと感じられた瞬間

 高校卒業後、大田はドラフト1位で巨人に入団をすると日本ハムを経て、紆余曲折ありながらDeNAにたどり着いた。あの最後の夏から14年が経過しているわけだが、まさか自分が青春時代を過ごした思い出の地を本拠地とするチームの一員として戦うことになると考えたことはあったのだろうか。

「いや、想像もしていなかったし、予想もしていませんでしたね。本当に不思議な縁だと思いますし、ある意味、なるべくしてなったのかな、と今は感じています。広島から出て相模でやらせてもらって、素晴らしい経験のできた高校時代。今も僕のことを覚えていて応援してくれるベイスターズファンの方に少しでもいいプレーを届けたいと思うんです」

 今や大田はDeNAに新しい風を吹かす存在だ。残念ながら現在は右太もも裏の張りによりファームで過ごしているが、今季はここまで33試合に出場し打率.281、5本塁打、出塁率.304と、おもに2番を任され上々の働きをしている。

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 とくに6月30日の阪神戦(横浜)では、9回裏にキャッチャーのミットをかいくぐる好走塁を見せサヨナラ勝ちを演出。阪神からリクエストがあり判定に時間を要したが、あらためてセーフの判定がくだされると、大田はベンチから一番最初に飛び出し、歓喜のウォーターシャワー。チームメイトはもちろんファンと一体となって勝利に酔いしれた。

 ヒーローインタビューでは「本当にもう、やるしかないんで。僕も移籍して1年目ですし、チームにもっと貢献して1つでも順位が上に行けるように頑張りたいと思います」と語ると、最後はキメの一言。

「ヨコハマサイコーー!!」

 大田の全身に横浜ブルーの血が完全に通い渡ったと感じられた瞬間だった。

6月30日の阪神戦、サヨナラ勝ちでガッツポーズの大田泰示

「僕は常に若手を鼓舞できる存在でありたいんですよ」

 大田の貢献度はなにもプレーばかりだけではない。14年目、32歳というベテランの域に入っても、ベンチでは誰よりも声を出し、チームを鼓舞する。チャンスになれば盛り上げ、ピンチでは諦めない姿勢を見せる。投球を終えた投手をねぎらい、守備から戻った野手たちを激励する。大田の加入により、DeNAのベンチの雰囲気は変わった。元々明るいチームではあるが、入団1年目のベテランの存在がそれをより芳醇なものにしてくれている。チームメイトの誰もがその存在を認め、練習中から大田の周りにはパッと花の咲いたような明るい雰囲気があるのだ。

 なぜ大田はそこまで献身的な姿勢を見せることができるのか。それはもちろん勝つためであり、さらに“結束力”が必要だと考えているからだ。大田がこんな話をしてくれたことがある。

「僕は常に若手を鼓舞できる存在でありたいんですよ。皆で支えあって、結束することができれば勝利に近づくことができますからね。例えば僕はジャイアンツが強かった時代にベンチにいたんですけど、やっぱり結束力や総合力が高かったんです。代打で矢野(謙次)さんがいて代走には鈴木(尚広)さん、またベテランには阿部(慎之助)さんや(高橋)由伸さんといった若い選手に声を掛けてくれる頼りになる先輩がいて、そしてチームを落ち着かせ安心させてくれる坂本(勇人)さんに長野(久義)さん。そういった一人ひとりの役割を間近で見てきたからこそ、自分はプレーばかりではなく、なにをすべきなのかってすごく考えるんですよね」

 そう言った上で、大田は「ベイスターズも総合力と結束力は高いと思います」と語っている。

「そのなかで僕は僕の色を出していきたい。悔いなく、最後の最後は笑えるように」

 青春時代にハマスタに置き忘れたものがありますもんね、と大田に言うと、笑顔を見せてかぶりを振った。

「いやいや野球をやっている間はね、青春なんですよ。小学生から好きで野球をやってきて、いつも目指してきたのは日本一。これだけは変わらない。だから今も青春なんです」

 ともすれば気恥ずかしくなるような台詞を爽やかに言ってのけるのも、また大田の魅力である。

 かつての神奈川県のヒーローは、時を経てゆかりの地で必死に汗を流している。混沌としているAクラス争いに大田の力が必要なのは間違いない。帰還をして活躍したあかつきには、ぜひお立ち台に上がって絶叫してもらいたい言葉がある。

「カナガワサイコーー!!」

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