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なぜロッテに“長距離砲”が生まれないのか 安田尚憲と山口航輝に期待

文春野球コラム ペナントレース2022

2022/07/31
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 前半戦を46勝44敗1分、楽天とゲーム差なしの4位で終えた千葉ロッテマリーンズ。春先の体たらくを考えればよくここまで追い上げてきた……というのが実感です。

 さまざまな数字でやはり見劣りするのは12球団最低のチーム打率.225とリーグ5位の53本という本塁打数。

 マーティン、レアード両外国人の不振がすべてと言ってしまえばそれまでですが、今日はもっと根本的な部分を掘り下げたい。

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 ズバリ!

 ロッテの生え抜き日本人選手で1シーズン30発以上打った選手って誰以来かわかりますか?

 なんと落合博満さんが1986年に50本でタイトルを獲得して以来、誰も記録していないのです。これは歴史の浅い楽天を除いてワーストだろうと思いきや、阪神の生え抜き日本人選手は1985年に掛布雅之さんが40本、岡田彰布さんが35本打って以来現れていない。上には上がいるものですが、阪神は佐藤輝明、大山悠輔選手のいずれかが近い将来クリアするでしょう。ロッテの現役日本人選手では井上晴哉選手が2018年に打った24本が最多。このままだと、ロッテだけが35年以上空白ってことになりそうです。

 いろいろと原因を考えたのですが、今回はあえて「試合前のフリーバッティング」を取り上げます。

長距離打者を育てる指導とは方向性が違っていた?

 パ・リーグファンの方ならみなさんご存じの通り、福岡ソフトバンクホークスは長打力の有無にかかわらず全ての打者が試合前の練習で多かれ少なかれ全力で柵越えを狙っています。それも「本塁打は中段にある通路よりも上まで飛ばすように(PayPayドームの場合)」というのが不文律。

 これはホークスOBでもある多村仁志さんに伺ったのですが、「右打者のフリー打撃はポール外側……つまりファウルゾーンのスタンドを目掛けて打つように」という指示さえもあったんだとか。打撃投手の緩いボールをそのタイミングで打てば、実戦のボールはホームランになるという理屈でしょう。

 こうした考えは全て王貞治球団会長の監督時代(1995~2008年)からみっちり教え込まれてきたこと。もちろん素材もあるでしょうが、結果として小久保裕紀、松中信彦、柳田悠岐、松田宣浩といった長距離砲が次から次へと育っています。

 比べてロッテはどうか?

 常時見ているわけではなかったのですが、前任の伊東勤監督時代(2013~2017年)の練習中は、コンパクトなフリーバッティングをメインにしている選手が多かったように思います。あるいは「試合でホームランを打てない選手が大振りをしても仕方がない」という考えがあったのかもしれませんし、打球を転がしたり、右方向を狙うという練習は、より実戦的と言えなくもない。

 さらに遡ってバレンタイン監督時代(1995年、2004~2009年)は「練習をしすぎて試合に疲れを残しては本末転倒」という指導理念が根底にありました。当時のロブソン打撃コーチはティーバッティングでおもちゃのように短いバットを振らせていましたから、飛距離云々より練習量そのものが総じて軽かった。でも、それが優勝という果実をもたらしたのですから誰も否定はできないのですが、一方でこうした長きにわたる練習スタイルの積み重ねが、ともすれば長距離打者を育てる指導とは方向性が違っていたのではないかという気もするのです。

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