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「『好きにセックスした親のエゴで、たくさん子どもを産んでいる』と…」46歳までに10人を出産した熊本大家族の母が(66)振り返る、39年間の子育て

岸大家族インタビュー#2

note

限られた環境の中で楽しむ努力を

――10人の子どもを育てる中で大変だったことはありましたか。

信子 なんだろう。特に大変だったことはないですかね。なるべくやりたいことはやらせてあげようと思っていましたけど、例えば「ピアノ習いたい」とか「ダンス習いたい」って言ってくる子どもはいなくて。金銭的な部分で遠慮をしていたのかもしれません。

 でも、できる限りの範囲でやりたいことは、とことんやらせてあげようと思っていました。

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英治 公園に行ったら木登りもさせていたし、走らせていたし、ダメだって言ったことはないよね。やりたいことをやらせるというか、親が強要をしないことを心がけていたかな。

信子 私たちのやりたいことをやらせるっていうのはすごくちっちゃな範囲でね(笑)。例えばディズニーランドには全員を連れて行ってあげられないけど、家の中で工夫しておまつりごっこをしたり、みんな裸になって泡で遊んだり。限られた環境の中で楽しむ努力をしていました。

「こうしなさい!」と強要しないようには心がけていました。わたしが小さかった頃、「着替えなさい! 宿題しなさい! 片付けなさい!」と母に言われるのかすごく嫌だったんです。今しようと思ってたのに、って。だからなるべく言わないように気をつけています。

脳梗塞で入院中の信子さんと外から手を振る英治さん 映画『人生ドライブ』より © 2022 KKT 熊本県民テレビ

「悪いところは何もありません。今のままで十分です」

――反抗期はありましたか。

信子 ありました。長男が反抗期の時は、気持ちの上がり下がりが激しくて。さっきまで怒っていたのに、いきなり「今日のおやつはなに~?」って聞いてくる。次男も次男でそれまではずっと笑顔だったのに、全てのことに反抗的になって。

「ダメでしょ、そんな言い方したら!」とか、「そんなことはまず自分のしないといけないことをしてから言うものよ!」って、私はいつも怒ってたんです。でも子どもたちは一向に変わらなくて。そんな時に夫が「人は言われたって変わらないと思うよ」って言ったんです。「じゃあどうしたら変わるの?」と聞いたら「それはわからない…」って(笑)。

 中途半端なアドバイスをくれたんですが、その時に昔、夫に言われたことを思い出したんです。新婚の頃に私が「どうしたらもっといい奥さんになれるかな」「どうしたらもっと愛される奥さんになれるかな」って悩んでいたときがあって、夫に「私頑張るから私の悪いところを10書いて」って紙を渡したら「嫌だよ~」と断られて。それでもしぶとく何度も頼んでいたら、紙に何か書いて渡してきて。見たら、「悪いところは何もありません。今のままで十分です」って書いてあったんです。

――嬉しい言葉ですね。

信子 そうなんです。「うそだ~、本当は何かあるんじゃないの~」って思ったんですけど、その言葉がすごく嬉しかったんです。もしその時に夫が、私の悪いところを本当に10個書いてきたらイラッとしたと思うんですよ。私はできた人間じゃないから。そして私は、自分で自分の悪いところを10個書き出しました。夫に教えてもらわなくたって自分の悪いところくらい自分で知っていたからです(笑)。

 そのことを思い出して、もしかして私が長男や次男にしてることって、「あなたのダメなところはここです!」っていちいち紙に書いて渡しているようなことなんじゃないかって思いました。あの日、私は夫に教えてもらわなくても、自分の悪いところは知っていました。子どもたちだってきっと同じです。それからは目につく悪いところを指摘するのではなくて、夫がわたしに書いてくれたように「今のままで十分だよ」という思いを伝えるように心がけました。

「おはよ~、ひでくんがいてお母さんはとっても幸せ」「てんちゃんと過ごせるのがとっても嬉しい」って愛を伝えるようにしてみました。「何言ってんの」って白い目で見られたりもしましたが、そのうちに反抗期も終わって、一皮むけた新しい子どもたちに生まれ変わったんです。

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