熊本県民テレビが20年以上追い続けてきた7男3女の岸家。自宅の全焼や2016年の熊本地震、妻・信子さんの緊急入院など、次々と困難に見舞われても、家族で乗り越えてきた。そんな21年間のテレビドキュメンタリーを、開局40周年を記念して同局が劇場上映に向け取材・再編集し、初の映画「人生ドライブ」の公開に挑んだ。
妻の信子さん、夫の英治さん、そして監督の城戸涼子さんに、これまでの子育てや密着取材について話を聞いた。(全3回の2回目/続きを読む)
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「お母さんはクッキーに夢中で全然遊んでくれなかった」と言われて
――大家族だと、「子どもが多いからちゃんと育てられていない」と外から思われないように、助けを求められずに抱えてしまうこともあるという話をよく聞きます。
信子 その気持ちはすごくよくわかります。私も最初は人の目を気にしてしまっていました。
お友達が病気になってしまった時に、元気付けるためにクッキーを焼いたことがあって。子どもたちは小さかったから、そんなことお構い無しに「お母さん遊んでよ~」「本読んで~」って言ってきたんですけど、「クッキー焼いているから待って~」って言ったんです。時間をかけて焼いて、可愛くラッピングしたクッキーをお友だちに渡して、「人のために良いことをやったな~」って喜んでいたら、帰りに子どもたちが泣いていたんですよね。お母さんはクッキーに夢中で全然遊んでくれなかったって。
人のために良いことをやっているつもりが、一番近くにいる子どもたちを泣かせるなんて何しているんだろうってすごく反省しました。そして、私は人にどう思われたいのかばかりを気にしていたんだということに気づいたんです。
子どもの気持ちを一番に考える
――人からどう見られるかよりも、自分が子どもとどう接するかが大事ということですね。
信子 そうです。ある時、子どもがおじいちゃんに買ってもらった長靴を晴れている日に履きたいと言ってきたことがあって。私は「うん。遊んでおいで」って履かせたんですけど、もしかしたら近所の人がその場面だけを見て、「こんな晴れた日に長靴なんて、大家族だから履かせる靴もないのか」って思うかもしれないでしょ。
だけど、私がそう思われるのが嫌だからという理由で、子どもの気持ちを尊重しないのは違いますよね。昔の自分だったら、どう思われるかを優先していたかもしれないですけど、クッキーの事件があってからは、子どもたちの気持ちを一番に考えるように心がけています。
――たしかに一場面だけを見ても、その人の本質の部分はわからないですよね。
信子 人の行動のほんのわずかな一場面だけを見て判断するのはやめようって思いました。
うちは子どもが多かったから、確かに部屋が散らかっている日もありましたが、でも、綺麗な日だってありました(笑)。今日はお客さんが来るから、と朝から掃除してピカピカにしてもその5分後には子どもが小麦粉をこぼして部屋が真っ白になることもあって(笑)。お客さんはその光景を見て、「あ、大家族だから掃除が行き届いていないんだな」って思うかもしれないですよね。
それをいちいち「本当はね、今日は朝から掃除したから5分前まではすごく綺麗だったんですよ」って説明できないので、人がどう思っても、自分が子どもを大事にしていれば問題はないかなって思うようになりました。