――そういったものは、読み返すことはあったんですか?
山本 いやぁ、恥ずかしいから読み返さない(笑)。私、いまでも自分の作品は恥ずかしくて読み返せないんですよ。
――捨てられたあとも描いていましたか?
山本 そうですね、高校生までは描いていました。美大受験に失敗してから神戸に引っ越すんですけど、美大を諦めた時点でマンガも描かなくなりました。再びマンガを描くようになったのは29歳のときです。それは『岡崎に捧ぐ』にも描いたとおりなんですけど、岡崎さんとはまた別の幼なじみに「描いてみれば」と勧められたからです。
アシスタントを雇ったことがない理由
――マンガ誌の新人賞への投稿とか持ち込みの経験は?
山本 それがまったくないんですよ。連載会議に出すためにネームを頑張るぞ、みたいな経験もないので、あんまりマンガ家らしいことをしていないような気が……(笑)。映画館で『バクマン。』を観たときには落ち込んじゃいましたよ。「みんなこんなに頑張ってるんだ」とか「こんな熱い感じ、私にはないな」って、すっごくうなだれて映画館から帰ってきました。
――アシスタントに入った経験は?
山本 それもないんです。だから、自分がアシスタントさんを雇った経験もいまだにゼロ。以前、アパレルで働いていたときに、自分は他人に注意することができない性格だと実感しました。店長だったので、ミスをした人に指摘しなきゃいけない立場だったんですけど、とにかくそれを言いたくなかった。他人を叱りたくない。
それは別に私が優しいとか、他人から嫌われたくないからではなくて、とにかく人に指示するのが苦手なんです。だから、もしアシスタントさんに入ってもらったら、こちらの意図とは違う絵があがってきても、描き直しをお願いするなんてできないし、自分で描き直しちゃうと思います。人の上に立つのが無理なので、いまはひとりで描いているのがすごく楽ですね。
――マンガはそれができますからね。
山本 そういう意味では天職だと思ってます。
写真=杉山秀樹/文藝春秋