身体をくすぐられることも嫌だった
よくある「身体をくすぐる行為」についても、近年は「慎重になるべきだ」とする論調が高まっている。子どもが喜んでいたり笑ったりする程度のものなら良いのだけれど、問題なのは、嫌がっていたり、逃げようとしたり、抵抗していたりするにも関わらず、くすぐるのをやめないことだ。
この場合、子どもにとっては「自分が『嫌だ』と意思表明をしたことが効力を持たなかった」ことになり、他者に対して自分は無力な存在である、自分の抵抗は意味を持たないものだ、といったような無力感を膨らませることにつながってしまう。
まだ子どもだった頃、1年に一度ほどしか会わない親戚の男性は面倒見が良いタイプで、まだ若くて体つきも大柄で、いつも肩車したり持ち上げたりして遊んでくれるので私は彼によく懐いていた。
唯一苦手なのは、身体をしつこくくすぐられることだった。もともとくすぐられることが嫌いだった私は毎回必死で逃げようとしたが、大男に腕を掴まれ、まったく抵抗できない状態で無理やり身体のあちこちをくすぐられるのは例えようのないほど不快で、いつ終わるかもわからないその時間をただ耐えなくてはならないのが本当に苦痛だった。けれども彼を含めて周りにいた大人たちは、その「微笑ましい光景」を見てゲラゲラと笑い、誰一人として事態を深刻に受け止めたり、制止しようとする者はいなかった。
大人になって突如現れたトラウマ
20代に差し掛かり、就職と共に一人暮らしを始めた私の身にじわじわと異変が起こった。
初めはただ「子どもの頃のいやな夢を見た」というだけで特に気にすることもなかったのだが、そのうち、似たような夢を頻繁に見るようになった。今思えばこれはのちに私を長期にわたって苦しめる悪夢の始まりだったのだが、当時はそんな事態に気が付くこともなく、ただ忙しい日々を乗り切るので精一杯だった。
それから数年が経過すると、状態は一気に悪くなった。毎日欠かさず父親や兄が夢に現れるようになり、私を殴ったり、身体を触ったり(触ろうとして近づいたり)するようになった。夢の中であっても恐怖や不安、嫌悪感を強く感じて、夜中に突然「やめて!」と叫びながら飛び起きたり、抵抗しようとして腕や足を思い切り振り回して起きたりすることが、当たり前になった。