ロシアとウクライナとの戦争の長期化が懸念されるなか、それでも仏の歴史人口学者、エマニュエル・トッド氏が「ロシアは国際社会にとって脅威ではない」と語る理由とは?

 トッド氏の新刊『第三次世界大戦はもう始まっている』より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む)

エマニュエル・トッド氏 ©文藝春秋

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第二次世界大戦より第一次世界大戦に似ている

 我々はすでに「世界大戦」に突入してしまいました。そして戦争の歴史によく見られるように、誰もが予測していなかった事態が、いま起きています。

 先日、ドイツの財界人や経営者が読む『フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥング』紙に、「この戦争は1914年と1939年のどちらと比較すべきか?」という見出しの記事が出ていました。要するに、この戦争を「第一次世界大戦」と「第二次世界大戦」のどちらのアナロジーで捉えるのが適切なのか、と問いかけているわけですが、私自身は「第一次世界大戦」の方が近いと考えています。

 ロシアによるウクライナ侵攻が始まった時、おそらく多くの人々は、第二次世界大戦の電撃戦のような戦争を想像していたことでしょう。しかし実際は、戦争の進行は遅く、むしろ第一次世界大戦のようになりつつあります。

 もちろん第一次世界大戦の時も、人々は、「短期決戦」で片がつくと思っていました。ところが実際は、誰も想定していなかったことが起きたのです。

 予想に反して、フランス軍がドイツ軍による攻撃を食い止めました。そこでドイツ軍は北海方面へと突き進み、4年にわたる「長期戦」が始まってしまったのです。

 第一次世界大戦は、少なくとも西部戦線においては、はっきりとした軍事的勝利によって終結を迎えたわけではありません。連合国のイギリスと、とくにフランスが「兵糧攻め」にしたことによって疲弊したドイツが、精神的にも崩壊し、第一次世界大戦はようやく終わりを告げたのです。

 ではいま、何が起きているのでしょうか。軍事的な側面と経済的な側面の2つの面から分析できるでしょう。