軍事面での予想外の事態
我々は、まず軍事面で驚かされました。
人々は、「2014年のクリミア制圧や親露派によるドンバス地方の一部掌握の時のように、ロシア軍は、ウクライナ軍をあっという間に潰してしまうだろう」と思っていました。しかしすぐに明らかになったのは、ロシア軍はそれほど強力でも有能でもなかったことです。アメリカとイギリスによって増強されていたウクライナ軍も、誰も予想していなかったような粘り強い抵抗を見せました。
我々は、想像していたのとはまったく異なる事態を目の当たりにしているわけです。それだけにこの先も、どうなるのか分かりません。ドンバス地方での攻防がどうなっていくのかも見通せません。いずれにしても、ロシア軍の軍事作戦がスムーズに進むことはなく、おそらく長期戦になるでしょう。
逆に言えば、ウクライナでのロシア軍の無力さは、「ロシアは西欧にとって何の脅威でもない」ことを示しているわけです。ロシアがウクライナを征服できなければ、ポーランドやドイツを征服することなどあり得ません。自国の国境に対するロシアの懸念にさえ理解を示せば、それ以外の意味において、ロシアは国際社会にとって脅威ではないのです。
経済面での予想外の事態
そして経済面でも、人々の予想は裏切られました。
「ロシアは、経済的に弱体化した貧しい国なので、ヨーロッパによる経済制裁に耐えられないだろう」と見られていました。
ところが、侵攻から1カ月以上経って明らかになったのは、「ロシア経済の耐久力」です。ロシア通貨ルーブルの相場は、いったんは暴落したものの、現在はほぼ通常レベルにまで回復しています。さらに戦争勃発時にロシアから逃げだした多くのロシア人も、再び国に戻ってきています。
さまざまな情報を見ていると、「ロシアの人々も戦争に慣れ始めたのだ」と感じられます。
アメリカとヨーロッパは、経済制裁によって、プーチンの支持率が下がることを期待していました。ところが、そうはなりませんでした。軍事的に困難な状況のなかで芽生える愛国主義──これはよく見られることです──に支えられ、むしろプーチンの支持率は上昇し、おそらく80%程度にまで達しているでしょう。
要するに、我々が目の当たりにしているのは、軍事的にも経済的にも、意外にも“比較的安定した”状況で、この「世界戦争」が長期的なものになることを示唆しています。
その意味でも、今次の戦争は、「第一次世界大戦」を彷彿とさせるのです。さらに、本質においてはイデオロギーや思想をめぐる対立でない点でも、「第二次世界大戦」よりも「第一次世界大戦」に近いと言えます。