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正しかったミアシャイマーの指摘

 2022年3月23日のインタビューで、私は、アメリカの戦略的現実主義者の論客ミアシャイマーの議論に言及し、彼の見立てに大方同意しながら、批判も加えました。

ジョン・ミアシャイマー教授 公式サイトより

 それから1カ月近く経過したわけですが、この間の推移を見ていると、前回述べたことはすべて有効であることが明らかになってきたように思います。

 私が同意したミアシャイマーの第一の見解は、「いま起きている戦争の原因と責任は、アメリカとNATOにある」ということ、つまり、ウクライナが“事実上”(de facto)のNATO加盟国になっていたからこそ、ロシアは、強大化していたウクライナ軍を手遅れになる前に叩き潰そうと決断した、という指摘です。

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 私が同意した第二の見解は、「ウクライナ側の軍事的成功と、ロシアが陥っている困難な状況を、われわれ西側の人間は、手放しで喜んでばかりはいられない」というものです。その上でミアシャイマーは、「この問題は、ロシアにとって『生存をかけた死活問題』である以上、ロシアは困難な状況に陥ることで、さらに攻撃的、暴力的になるだろう」と予測していました。

 現状を見るかぎり、すべて彼の予測通りに事態は進んでいます。戦闘は、ますます容赦ないものとなり、ロシアは、この戦争にますます深くのめり込んでいるからです。

米国は戦争にさらにコミットする

 しかし私は、一点においてミアシャイマーを批判しました。

「ロシアはアメリカやNATOよりも決然たる態度でこの戦争に臨むので、いかなる犠牲を払ってでもロシアが勝利するだろう」と彼は予測しました。この問題は、ロシアにとって「死活問題」である一方、アメリカにとっては「地理的に遠い問題」「優先度の低い問題」で「死活問題」ではないからだ、と。

 しかし私は、そうではないと考えました。これでもしアメリカがロシアの勝利を阻止できなかったら、アメリカの威信が傷つき、アメリカ主導の国際秩序自体が揺るがされることになるからです。そうである以上、この問題は、アメリカにとっても「死活問題」になる、と私は考えたわけです。

 この一カ月の事態の推移によって、ミアシャイマーの指摘の大部分だけでなく、彼に対する私の批判もまた有効だったことが証明されたように思います。

 いまアメリカがロシアの軍事的失敗を喜んでいるのは、明らかです。

 ロシアに対する経済制裁によって、ヨーロッパ経済、とくにドイツ経済が麻痺していくことについても、ひそかに満足感を味わっていることでしょう。

第三次世界大戦はもう始まっている (文春新書 1367)

エマニュエル・トッド ,大野 舞

文藝春秋

2022年6月17日 発売