自首を説得すれば、自分たちの命が危ない
普通ならここで自首するよう勧めるか、娘を不憫に思って事件がバレないよう画策でもしそうなものだが、男は金田に自首を促すことなく通報している。その理由を、男は警察でこう説明したという。
「あの女なら殺す。あいつならやりかねない。あの女は普通の感覚ではない。自首するよう強く説得すれば、かえって自分たちの命が危ないと思った」
そう感じていたのは、男が可愛がっていた犬がある時、死んでしまったからだった。
「自分と娘になついていた犬が、ある時、金田に歯を剥いて吠えた。その後、自分がちょっと留守にして帰ってきたら、犬が舌を出して死んでいた。咄嗟に金田に絞め殺されたと思ったが、問い詰めず、墓を作って埋めてやった。すると金田が墓の前で号泣したんだ。それを見てこの女は怖い、そのうち自分たちも殺されると思っていた」
男はB氏にそう打ち明けたという。
殺人現場に漂う独特の臭い
刑事たちは当初、男の話に対して半信半疑だった。A氏も「本当かと思ったが、確かに被害者と連絡が取れないし、親戚からも捜索願いが出ていた。親戚が金田に被害者の居場所を尋ねると、どこか旅行に出かけていると言われたというのだ」。
居場所が確認できないため、刑事らは被害者の自宅を調べに行った。ドアを開け、中に入った途端、「男性は殺されている」とA氏は思ったという。
「臭いだ。殺人現場に漂う独特の臭いがした」
死の臭いにも種類があるとA氏はいう。孤独死などとは違い、殺しの現場には腐って淀んだような血の臭いがするらしい。
「臭いはキッチンから流れてきていた。キッチンに行くと、そこだけ絨毯が敷かれていて不自然だった。臭いはそこから上がってきていた」
A氏が絨毯をめくると床下収納が現れ、開けるとプラスチックの蓋にガムテープが何重にも貼られ目張りされていた。ガムテープを剥がし、パカッと蓋を開けたA氏が見たのは、コンクリートで固められた白骨遺体だった。
金田は床下収納に備え付けられていたプラスチックの箱を外し、その下を掘って穴を広げて、遺体を切断して、そこに押し込んでいた。上からコンクリートを流し込み、蓋をして目張りをしていたが、遺体は腐敗して組織が融解し骨が見えていたのだ。