死因と殺害方法を特定できぬまま裁判に
被害者の遺体は発見されたが、この時点で金田が犯人だという証拠は、警察には何もなかった。あったのは男から聞いた金田の告白だけだ。
日本国籍を取得しているとはいえ、金田は中国出身者。中国に逃げ帰られたら捜査はそこで止まる。逃げられないようにするにはどうすればいいか。刑事らは金田が国外逃亡しないよう身柄を確保するため、窃盗と詐欺容疑で逮捕状を取った。
「同居の男が、金田と一緒に被害者の銀行口座からATMで数十万の金を引き出したと証言し、裏付けが取れていた」(B氏)
身柄を押さえられると、金田はすぐに窃盗したことを認めた。だが殺人は否認した。鑑識の結果、死体を埋めたコンクリートから、金田の髪の毛が出たことで、警察は金田を死体損壊遺棄容疑で再逮捕。この証拠から遺体を埋めたのは、間違いなく金田だと判明する。
しかし、金田の弁護団は殺人罪は適用できないと主張した。殺害の道具やセメントを購入し、被害者が死亡後に金を引出し、年金も貰い続けていたなど状況証拠は十分にあったが、遺体の損傷が激しく白骨化していたため、死因や殺害方法が特定できなかったのだ。
その後、殺害に使ったとされる凶器が、被害者宅の近くに流れる川から次々と発見された。それでも金田は犯行を否認し続け、自分は無実だと主張した。凶器が出ても、依然として死因と殺害方法はわからないままだ。「検察にとって起訴状に、いつ、どうやって殺したのか書けないということは、殺人罪を問うべき裁判が難しくなることを意味していた」と元刑事のC氏はいう。
だが、ここから裁判の度に金田の供述は二転三転し、混迷していく。無実を主張しようとして発言すればするほど、辻褄が合わなくなっていったのだ。裁判を傍聴していたC氏は、当時の金田の様子についてこう語る。
「完全否認だが、とにかく言っていることが毎回コロコロ変わる。話し始めると、悲劇のヒロインになったつもりか、自分に酔って延々と話し続け、そのうち泣きだす」