「死なないで、ね……どうか、生きてください……」

 2018年9月1日、樹木希林さんは病室で窓の外に向かって、涙をこらえながら、繰り返し何かに語りかけていた。学校に行けない子どもたちが大勢自殺してしまうというその日。今を生きる子どもたちに対して、晩年の樹木希林さんはどんな思いを抱いていたのか。

 ここでは、樹木希林さんが遺した言葉と、内田也哉子さんが紡いだ言葉をまとめた書籍『9月1日 母からのバトン』(ポプラ社)の一部を抜粋。生きづらさを感じる人達から寄せられたさまざまな質問に対する樹木希林さんの答えを紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)

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人によく思われたいなんて、思わない

――話は変わりますが、私は人間関係で難しいな、と思うことがよくあります。どうすればいいのでしょう?(20代・女性)

 それは自分を大切にしているからでしょうね。

 これも親の教育の賜物で、私は人と比較しない、人におもねらない。おもねるのは人によく思われたいからで、人ともめるのは自分をぞんざいにしているわけ。自分を大事に思ったら、衝突はしないわよね。私は自分をすごくぞんざいに扱ってきたから、いっぱいもめたわよ。

©文藝春秋

 どう思われても平気なの。だって世間はそんなに私のことを注目してないですから。向こうを向いたらもう忘れるでしょ。私で食べている人は別だけど。世の中の人は、一タレントが全身がんになろうがそれでご飯がまずくなるわけじゃないでしょ。世間は私をこう思っているはずだ、なんて思うほうがおこがましい。

 私、だいたいお手紙に「返礼不要」って書くんです。いちいちありがとうございましたってお便りが来るんだけど、まったくいらない。こっちは送りたくて送ったんだからって感覚なの。

 私は人にものを送ってこないでって言う。タダならなお困る。よく送ってくるのよ。いらないって言ってるのに送ってくるから、癪に障るから、品物に「いらない」って書いて送り返すの。

我慢したっていう記憶がない

――すごい(笑)。

 どうぞご放念くださいってやつよ。まあ、そのせいでだいぶ嫌われてきましたけどね。昔、大先輩の杉村春子さんに現場で「へったなの」って言ったこともあったから。

――ええっ!!

 小津安二郎さん(映画監督)の『秋刀魚の味』の現場だったんだけど、何度もNGが出るから、「なんだあ、お昼から来ればよかった」って思っちゃったのよ。そういうように失礼なやつだったわね。