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誰にでも、ひとつはチャーミングなところがある

――たしかに……。そう言えば、大学に行った友達も、「あんまり楽しくないぞ」と言ってました。

 そういうもんなのよ。あなた、この中じゃいちばんハンサムだよ。それは親に徳があったんだな、きっと。だからハンサムな顔に生まれた。好き嫌いはあるだろうし、好きでその顔に生まれたわけじゃないだろうけど、そういう顔に生まれてない人からしたら、どれだけうらやましいか。その顔の良さを成熟させていくことに、命をかけたっていいじゃないか(笑)。

 人って、ひとつはチャーミングなものを持っているの。それにふたをして、みんな同じようにしている。でも、それを一切忘れたら、すごく生きやすくなるから。よく思われる必要なんてないんだよ。

 たとえば、俳優の小林亜星さんっているでしょ。ドラマ『寺内貫太郎一家』を始めたとき、演出家や私は、主役は小林亜星さんがいいと言ったのよ。亜星さんなんて太ってるぐらいしか取り柄のない人でしょ。

――いやいやいや(苦笑)。

 あの人、本業は作曲家で、何を言われてもワッハッハッと笑ってるの。太ってることがすごくいい味になってる。ああいうのが大事なんだな。

 今や女優もアナウンサーも、最近じゃスポーツ選手もみんな同じ顔だからね。同じような顔に同じような服を着て、それで若い女優さんは「役が来ない」とこぼすんだから、もうこっちは引く手あまたよ(笑)。

©文藝春秋

生き続けなきゃ、もったいない

――最後に、自分の子どもが不登校やひきこもりだったら、つまり、御しがたいダイバダッタのように見えたら、親としてどう向き合えばいいのかについて教えてください。(不登校新聞編集長・石井)

 うん……。私なら、自分は助かって、子どもだけをどっかに落とそうって考えるんじゃなくて、この子が食っていけなくなったら、自分も路上でやっていくぐらいの覚悟をするなあ。

 この子の苦しみに寄り添うしかないのよね。だから、ああしろ、こうしろとは、もちろん言わない。言って直るようならとっくに直ってるでしょう?

 うちの夫が「不良になるのも勇気がいるんだ」と言ったことがある。道を外すのも覚悟がいるのよ。ただ、それがだんだんと習慣になっちゃうとねえ。一緒に住んでる人はほんとに大変だと思うけど、やっぱり、自分が成熟するための存在なんだと受け取り方を変えるのがいいと思いますね。

――なるほど。

 お釈迦さんがね、「人間として生まれることはきわめて稀なことだ」と言ってるの。だったらね、生き続けなきゃ、もったいないじゃない。

9月1日 母からのバトン

樹木希林 ,内田也哉子

ポプラ社

2022年8月10日 発売

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