「会場に入る際ボディチェックを受けただけで、中に入ると自由でした。こんなあっさりとした警護でいいのかと不思議に思ったことを今回の事件で思い出しました。
もちろん日本は銃の所持が厳しく取り締まられていますから、銃撃は念頭になかったのかもしれませんが、安倍首相が登壇した際の私からの距離は数メートルほど。韓国のSP関係者に疑問をぶつけると、『瞳孔の動きで不審人物を割り出す科学的な方法もとられていただろう』と言っていましたが、今回の事件を見てやはり危機感の薄さを感じました」
SPが朴元大統領を瞬時に取り囲んだ
SNSなどでは約5年ぶりに出所した朴槿恵元大統領が今年3月、大邱市にある自宅に入る前に起きた出来事の動画が出回った。この時、集まった人々を前に挨拶をした朴元大統領目がけて焼酎の瓶が投げつけられたが、周りにいたSPが瞬時に朴元大統領を取り囲み、あっという間にその姿は見えなくなった。このため、安倍元首相の周りにはなぜ誰もいなかったのかという声が挙がっていた。
韓国では元・現職大統領問わず警護を担当する「大統領警護処」があり、朴元大統領の帰郷の際も同行していた。この部署はおよそ500人所帯といわれている。
この「大統領警護処」はちょうど6月末に「龍山時代をリードする大統領警護官を探します」という報道資料をメディアに流していた。5月に誕生した尹錫悦大統領は、帝王的な大統領にはならないとし、青瓦台(大統領府)を開放。執務室をソウル市中心部にある龍山に移したが、「市民との対話を重視したい」とし、日本のように記者のぶら下がり取材を始めている。前出記者が言う。
「警護処関係者は、日本のように大統領が市民の中に入っていき会話できるような警護体制に変えていきたいと話していたのですが、今回の安倍元首相の銃撃事件を受けて修正されることになるのではないでしょうか」
そして、犯人像やその動機についても関心が集まっている。日本のメディアの報道を引用し、すぐに「元自衛官の41歳」と報じ、動機については「銃撃犯 母が宗教にハマって破産 安倍が拡散させたと信じ」(東亜日報、7月11日)と伝え旧統一教会との関連についても触れている。ただ、こちらは捜査結果を待ってといった慎重な雰囲気だ。
旧統一教会は1954年、韓国で創設された。日本では、霊の祟りがあるなどして法外な価格で壺や印鑑などを売る「霊感商法」を行い、80年代に社会的な問題となった。90年代に入り大物芸能人などが合同結婚式(創始者が信者同士の結婚を決める)に参加したことで広く知られるようになったが、韓国ではこうした実態についてはあまり知られていない。数ある新興宗教のひとつといった認識だ。
尹大統領は安倍元首相の訃報にすぐに「日本の憲政史上最長期間を務めた総理であり、尊敬される政治家を失い、遺族の方と日本国民へ哀悼の意を表します」(朝鮮日報、7月9日)と弔電を送り、駐韓日本大使館に設置される焼香所も訪れる予定だと伝えられた。また、首相をはじめとする弔問使節団を日本に派遣するという。