誰が? 僕が? 何のため? 生まれてくる子どものために? なら仕方がない。僕は道路に散らばったペットボトルを拾いあげる。アスファルトに近づいた顔は、照りかえしなのだろう熱にパンチされたかのようだった。
突然、耳元で悲鳴にも似た大きな音がした。死にかけのセミがふらふらと飛んでいた。ジジジジという鳴き声が「あぶねぇじゃねぇか」と叫んでいるように聞こえた。のけぞる。それすらもしんどい。汗が飛んだ。ヘルメットの下の頭に巻いたタオルはびしゃびしゃだ。タオルが含んでいる水分も、すべて汗で、垂れてくる。奥歯がガタガタとふるえる。きっと熱中症になりかかっている。それでも一歩ずつ歩みを進めてペットボトルを拾う。
こんなに大変な仕事だとは思わなかった。36歳まで芸人の仕事しかやってなかったので、まったく運動をしていなかった。
ゴミ清掃員になる前、街中で見かけたときに「大変そうだなぁ」と思ったことはあったが、やってみるとこんなに大変だとは思わなかった。
ゴミ清掃員のリアルな1日
ゴミ清掃員は清掃車にゴミ袋をパンパンに詰めたら、1日の仕事って終わりのイメージない? 僕はあった。仕事がハードなぶん、午前中に仕事がおわって、夕方前には帰れると勝手なイメージで思っていた。
実は清掃車をパンパンにする作業を1日、6回やる。
清掃車がいっぱいになると清掃工場というところに行って、回収したゴミをゴミピットと呼ばれる大きなゴミ置き場に置いて、現場に戻って、続きをやる。
1回、回収するのにだいたい50分から1時間かかる。
びっくりするでしょ? 清掃車1台で、900個のゴミ袋が入るといわれている。重さにすると最大で2トン。
2トンといってもピンとこないよね? 小柄なアジアゾウのメスがだいたい2トンといわれている。なのでもし清掃車1台に、ゴミをパンパンにつめたら、アジアゾウのメスと同じ重さになる。
ざっくりだけど、それを6回くりかえすから1日に5400個のゴミ、つまり10~12トンくらいの重さのゴミを清掃車1台で回収する。メスのアジアゾウ5、6頭分。ゾウの群れだ。
本当にさまざまなゴミが出る。
とても大量のゴミを回収しなければならないから、ひとつひとつまじまじ見ることはないけど、土の詰まった電子レンジのように、たまに「なんで!?」と思うゴミが出ている。