明石家さんまと結婚、一時期俳優業から離れたが…
そんな天性の俳優である大竹が一時期、仕事から遠ざかったことがある。1988年に結婚した明石家さんまが、基本的に妻には家にいてほしいと思っていたため、1年半ほど休業したのだ。だが、ある日、シャワーを浴びていると、自分の身体の細胞がプツプツと動き、「芝居をしたい」と叫んでいるような感覚を覚え、さんまにも話したうえで活動を再開する(※9)。
復帰後初の舞台は、男女2人の演者による朗読劇『ラヴ・レターズ』シリーズの第1回だった。このシリーズは一昨年の2020年2月に東京・渋谷のパルコ劇場で30周年記念公演が行われ、大竹も久々に出演する。コロナ禍により、出演を予定していた舞台公演が軒並み中止に追い込まれたのはこの直後であった。自粛期間中は家事などに追われ、「演じたい」「仕事に復帰したい」という疼きもなかったという。それでも6月にWOWOWの番組収録のため渋谷のシアターコクーンに赴いて、松尾スズキの演出で中村勘九郎と『十二人の手紙』(井上ひさしの書簡体小説)を朗読したときには、「ああ、劇場っていいなぁ」と心から思ったと話す(※10)。
その後、2020年11月には主演舞台『女の一生』の公演が予定どおり1カ月間行われた。その幕が無事に降りたあとについて、彼女は新聞連載のエッセイ(※9)でこうつづっている。
《翌朝。いつも千秋楽の次の朝は身体が重く、ベッドから起き上がれなくなる。もちろん(引用者注:稽古から)2カ月間の肉体の疲労はあるのだが、それと同時に、私の身体に潜んでいた役の人物が抜けていくのを感じる不思議な感覚になる。うまく言えないが、幽体離脱のような感覚に陥る》
このあとで彼女は《「またまた、さすが女優。思い込みが激しいねー」と言われてしまえば、それまでだが》と自虐めいた一言を付け加えるのだが、いや、そこまで役に入れ込むところにこそやはり大竹しのぶの真髄があるのだろう。
※1 大竹しのぶ『わたし、還暦? まあいいか2』(朝日新聞出版、2017年)
※2 『東京人』2015年6月号
※3 『婦人公論』2003年7月7日号
※4 『週刊文春』2016年2月11日号
※5 『週刊朝日』2009年12月11日号
※6 島﨑今日子『この国で女であるということ』(教育史料出版会、2001年)
※7 『週刊現代』2018年12月8日号
※8 『AERA』2009年7月13日号
※9 大竹しのぶ『母との食卓 まあいいか3』(幻冬舎、2021年)
※10 『週刊朝日』2020年10月23日号