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少年の質問に甲子園の元スターはどう答えるか

 元木もかなり困っている。だが、手持ちの武器が「何か質問ある?」しかないのだ。お互いに困っている。

 何とかせねば。

 12歳の小太りでスポーツ刈りの少年、もとい私は立ち上がった。

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「えっと、チームのコーチはゴロを足の前で捕球しろと指導するのですが、連合チームの監督は体に近いところで捕球しろと指導します。どっちが正しいのでしょうか?」

 なかなかいい質問だと思う。この状況にしては我ながらよくやったと思う。41歳の私がこの状況に居たとしたら小太りの少年のことを心の中でほめちぎっていることだろう。

 さて、このGood Questionに甲子園の元スターはどう答えるか。念願の「何か質問ある?」が来たのだ。これには丁寧な回答が来ると私は期待した。

苦闘する元木大介、そして浮足立つ登戸民

 元木は口を開いた。

「んー、なら中間くらいでいいんじゃないかな」

 そして私を群衆の前に立たせると、チームの監督と連合チームの監督のグラブの位置を示すよう促され、まさしくその中間にグラブを置くようにと説いたのである。

 ……うーん。

 まぁ、足の前だと攻めすぎだし、体に近いと捕球が遅れるし、いいとこ取りという意味ではこれで良かった。うん、良かったんだ。恐らく元木大介は細かく説明するタイプではないのだろう。正解を出してくれたのだから、それを信じよう。それでいいのだ。

 そして私の質問を皮切りに元木大介に対する質問は……一向に増えなかった。

 結局私は群衆の中で3回ほど質問をしたはずだ。紫色のウインドブレーカーを着ている元木大介からバットスイングの指導を受ける私の写真は今でも実家に残っているが、30年間で見返したことは殆どない。

 どちらかというと鮮明に記憶しているのは、若い元木大介がどうにか野球教室を成立させようと武器がない中で苦闘する姿であり、テンパる元木に気遣いが出来ないほど舞い上がる登戸の民たちのことである。

 かなり大変な2時間が終わり、サイン会には500人が行列を成したそうだ。

 そして野球教室の最後には「がんばれがんばれジャイアンツ!」の合唱が空しく響くのだった。

 巨人軍のヘッドコーチをしている元木大介を見ると、私はあの日のことを思い出すのである。果たして元木大介はあの日の小太りでスポーツ刈りの少年のことを覚えているのだろうか。いや、覚えていてほしい。何故ならあの場で浮足立っていなかったのは私だけだったのだから。

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