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「官能小説の依頼をこなしていかないと、未来はないだろうと…」窪美澄(56)が直木賞受賞作で“封印したもの”とは

『夜に星を放つ』直木賞受賞インタビュー#1

2022/07/22

――『夜に星を放つ』はどの短篇も星や星座がモチーフとなっていますが、それはこの「銀紙色のアンタレス」がきっかけだったのですか。

窪 そうです。この短篇に星座が出てきたので、そこから星にまつわる短篇を書いていきましょう、というお話になりました。少しずつ書き進めていったので、わりと長いスパンで書いた1冊になりますね。途中でコロナ禍に入ったので、5作のうち2作はこの時期の話になりました。虫ピンで留めておくように、コロナ禍のことも書き留めておきたかったんです。

婚活アプリにはまる年下の友人たち

――巻頭の「真夜中のアボカド」がコロナ禍の話ですよね。婚活アプリで知り合った男性とデートを重ねる女性の話です。

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 コロナ禍になってから、私のまわりの年下の友人がめちゃめちゃ婚活アプリにはまっていて、最初は「なぜに?」と思っていたんです。でもコロナ禍で寂しい状況の時に心の支えが必要になる気持ちは分かるので、これも書き留めておきたいなと思いました。

©文藝春秋

――彼女には亡くなった双子の妹がいて、妹の元恋人と命日に会う習慣があります。単に婚活アプリの話だけでなく、そうした状況を絡ませていく組み立て方が絶妙です。

窪 アイテムとして星座を出すことにしたわけですが、これは雑誌掲載されるのが双子座が見える時期だったんです。それで双子座を出そうと思い、双子だったらどんな話になるかなと考えていきました。小説の中にはあまり反映されていないんですけれど、どの話も、星座にまつわるお話を手がかりにしたところがあります。

――「真珠星スピカ」は中学生の少女が主人公。亡くなった母親の霊が彼女にだけ見えて、奇妙な共同生活を送っています。学校では彼女をいじめるクラスメイトの間でこっくりさんが流行っている。この話は特に、後半胸が熱くなりました。

 これは掲載誌が怪異短篇の特集の号だったので、どうしようかなと考えた時に、「そういえばこっくりさんってあったな」と思い出して。そこに、いじめのことや、その時期に出るスピカという星を結びつけていった感じです。

5作中3作が男性目線の話に

――「湿りの海」では、離婚した妻と幼い娘がアリゾナに行ってしまって傷心中の男の隣の部屋にシングルマザーが越してきて、交流が生まれていくけれど……。

窪 この話は子どもがアリゾナという、月の裏側みたいに遠く感じられる場所に行ってしまった男性の喪失感が起点になったと思います。この本は結果的に5作中3作が男性目線の話になったのですが、それは自分でも意外でした。自分はわりと、男の子とか男性の目線で書くのが好きなのかもしれないです。自分と同じ性だと、やはり近すぎて難しいところがあるので。