『夜に星を放つ』(文藝春秋)で第167回直木賞を受賞した、作家の窪美澄さん(56)。今月20日に行われた選考会から一夜明け、受賞した今の心境、受賞作を執筆したきっかけなどについてうかがった。(全2回の1回目/後編に続く)
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――このたびは『夜に星を放つ』での直木賞受賞、おめでとうございます。昨日の記者会見では大変緊張されていたそうですが、一夜明けていかがでしょう。3度目の候補で受賞して一安心、という感じでしょうか。
窪 そうですね。候補になるのはすごくありがたくて嬉しいんですけれど、やっぱり結果が出るまでがすごく緊張して大変な時間なので。3回目で獲れてよかったという安堵感がすごくあります。
――受賞作『夜に星を放つ』に収録された5篇の主人公たちは、年齢も立場もまったく異なります。最初に雑誌掲載された「銀紙色のアンタレス」は高校生の男の子が主人公の短篇で、これは2015年に書かれたものなんですね。
窪 「オール讀物」さんから1000号記念号に短篇を書いてくださいとご依頼があったんです。テーマは自由で、8月号だったので夏にまつわるお話にしたんだと思います。私は短篇を書く時、わりとその雑誌が発売される季節を意識するので。
――少年のひと夏の淡い恋心が描かれていますね。
窪 それまで、わりと性的な話を依頼されて書くことが多かったんです。この話はそれを封印しようと意識しました。これまで書いてきたような、性的な、ちょっとアブノーマルな感じのある少年ではなくて、どこにでもいる少年の夏の話にしようと考えました。男の方が読んだら「いや、男の子ってこんなに無垢じゃないよ」と言うかもしれませんが、自分の、男性に対してイノセンスであってほしい、みたいな思いが反映されていますね。
「官能」をテーマにした執筆依頼が多かった
――窪さんは「女による女のためのR-18文学賞」がまだ性がテーマの小説を募集していた頃にこの賞からデビューされて、そのためかデビュー後はしばらく「官能」をテーマにした執筆依頼が多かったそうですね。
窪 小説を書くうえで、性的なものを書きたい気持ちは一部としてはあったけれど、全部ではなかったんです。でも当時は官能小説の依頼をどんどんこなしていかないと、小説家としての自分の未来はないだろうと思っていました。ただ、性的なものを書いていると、性体験が豊富な人なんじゃないか、みたいな誤解もあったりして。これはどうしたらいいかな、と思っていたところがありました。