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《直木賞受賞》「60歳になるまで、私はあと4年しかないんです」作家・窪美澄が見据える“老い”とこれからの作家人生

『夜に星を放つ』直木賞受賞インタビュー#2

2022/07/22
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『夜に星を放つ』(文藝春秋)で第167回直木賞を受賞した、作家の窪美澄さん(56)。受賞作は連作短篇集で、コロナ禍の日常を描いた「真夜中のアボカド」など5篇が収録されている。コロナ禍や戦争といった出来事を「書き留める」ことへの思い、最近ハマっているというTikTokや海外ドラマなど、幅広くお話をうかがった。(全2回の2回目/前編から続く

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――どの短篇もそのシチュエーションの作り方が絶妙だし、主人公はもちろんまわりの人たちの奥行も短篇の中でしっかり伝わってきますよね。

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 ありがとうございます。短篇といっても長篇と同じくらい人間関係を書かなくちゃいけないし、長篇と同じくらい骨が折れるというのは、短篇を書けば書くほど思います。

窪美澄さん ©文藝春秋

――「星の随に」で少年を助けたおばあさん、佐喜子さんは幼い頃に見た東京大空襲の絵を描いています。戦争のことは、意識的に書こうと思われたのですか。

 以前書いた『アニバーサリー』という作品に、昭和10年生まれのマタニティスイミングの先生が出てくるんですけれど、そのモデルとなった方にいろいろ話を聞いたんです。その方は当時、東京の目白から神奈川の生田に疎開したそうですが、大空襲の際、東京東部の下町のほうが焼けている明かりがぼんやりと見えたそうです。甘い物を口にしたくて、糖衣錠のビタミン剤をみんなで分けあった、といったお話もうかがいました。そうしたことは書き留めておかないと記憶がどんどん流れ去って後世に繋げられなくなってしまう、という意識はかなりありますね。

第167回直木賞受賞作『夜に星を放つ』(文藝春秋)

「書いておくんだ」という気持ち

――『アニバーサリー』では東日本大震災のことも書かれていましたよね。今回描かれたコロナ禍の日常もそうですが、そうした出来事や、その時代のなかで生きる人々、特に大きな声を出せない人たちのことを書いておくんだ、という気持ちを強くお持ちなのかなと。

 そうですね、おっしゃる通り、「書いておくんだ」という気持ちですね。

 最近、詩人の長田弘さんの詩の、「貝殻をひろうように、身をかがめて言葉をひろえ」という一節がすごく響いたんですよね。貝殻を拾うように、腰を低くして、視線も低くして、言葉を拾う。自分が小説を書くってこういうことだな、と思うところがありました。