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《直木賞受賞》「60歳になるまで、私はあと4年しかないんです」作家・窪美澄が見据える“老い”とこれからの作家人生

『夜に星を放つ』直木賞受賞インタビュー#2

2022/07/22
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息抜きは「美容整形のTikToker」を見ること

――そういえば昨日の記者会見で、コロナ禍になってから息抜きでTikTokや配信などをよく見るようになったとおっしゃっていましたね。どんなものをご覧になるんですか。

 美容整形のTikTokerとか。あと、医療系ドラマがすごく好きなんです。『ER』とか『シカゴ・メッド』とか『賢い医師生活』とか……そうしたものはもう一通り見てしまったので(笑)、最近はまた本をたくさん買っています。

©文藝春秋

――辛い時に、小説から力をもらったり、背中を押されたことはありますか。

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 たくさんあるんですけれど、小説家になる直前に読んだ白石一文さんの『僕のなかの壊れていない部分』は、小説を書かないといけないというか、書いていいんだと思わせてくれた作品ですね。

 あの小説は主人公が母親に見捨てられたことを引きずっているんですよね。後半にその主人公が、自分の人生にとって本質的なことからは決して目をそらすことができない、自分に起こった辛い大事な出来事は絶対に忘れられない、みたいな話をするんです。自分も、母親がいなくなったり子どもを亡くしたりしていますが、誰にでも人生でつらいことはあって、忘れられないことは忘れられないんですよね。そんなことはまるでなかったことにして生きていくのではなくて、傷を傷のまま抱えて生きていっていいんだ、ということを白石さんの小説で教えてもらった気がします。

『僕のなかの壊れていない部分』(白石一文 著、文春文庫)

――それが、ご自身が小説を書くきっかけにもなったのですね。窪さんは2010年にデビューしてから、現代人の日常以外にも、さまざまな題材を書かれていますよね。極端に少子化が進んだ近未来社会を舞台にした『アカガミ』とか、少年犯罪の加害者と被害者のその後を追った『さよなら、ニルヴァーナ』とか……。

 『アカガミ』なんて、全然SFを読んでこなかったのに「SFっぽいものを書きたい」っていう、ただそれだけで書いたという(笑)。