――最後の「星の随(まにま)に」も男の子の話ですものね。父親が再婚し、新しい母親との間に弟が生まれた小学生の男の子が主人公ですが、これはご自身の実体験がヒントになったそうですね。
窪 そうなんですよ。個人情報になるので詳しく言えないんですが、以前住んでいたマンションのエントランスに泣いている男の子がいて、「どうしたの?」と訊いたら「お父さんにお部屋を出されちゃった」と言うんです。「一緒に謝ってあげるからおうちに帰ろうよ」とエレベーターに乗ったら、その子が身の上話を始めたんです。「お父さんがおうちにいるんだけど、僕がいると赤ちゃんが泣いちゃうからお外にいなさいって言われちゃった」とか。お父さんが、コロナ禍でテレワーク中だったんです。
その時すぐに「これを小説に書こう」と思ったわけではないんですが、ずっと、自分はその子を助けたことになったのか気になっていました。部屋までは一緒に行ったけれど、それだけでは何の解決にもなっていないじゃないですか。本当の解決は、もうちょっと介入することだったかなと思い、物語の中では少年を助けるおばあさんを出しました。自分の中でケリをつけたかった、というのがありました。
「家族はいなくても、生きていける感じがします」
――そのおばあさんもそうですし、他の短篇にも、主人公を気にかける存在が登場しますよね。そこまで親密ではなくても、ささやかな関わり合いが主人公の心模様に変化をもたらすきっかけになるのがすごくいいなと思いました。
窪 私は今、息子も独立したのでずっと一人暮らしなんです。ずっと一人で小説を書いてきたので結構孤独に強いと思うんですけれど、それでもこれだけコロナが続くと、なんとなく寂しく感じることがあるんですよね。それで、年下の友達にLINEでウザ絡みしたりして(笑)。そんな時、たとえば同年デビューということで繋がりのある柚木麻子さんや朝井リョウさんから面白いグループLINEが来たりする。彼らは別に私を救おうとは思っていないんですけど、ちょっと気にかけてくれているんだろうなとは感じるんです。それでその日は救われるというか。そういうことを書きたかったですね。
家族はいなくても、そんなふうに緩く繋がっている関係がいくつかあると、なんとなく生きていける感じがします。コロナ禍の中では特に、人にはそういう関係が必要なんじゃないかという気がします。
――深読みなんですけれど、ぽつんぽつんとある星と星を線で結びつけて何かの形を作るのが星座ですよね。この短篇集の、ぽつんぽつんと一人でいる主人公たちが、他人とのちょっとした結びつきで何かを見つけていく姿が重なるなと思って……。
窪 あ、美しい(笑)。それは意識していなかったけれど、そう思ってくださってオッケーです。私は昔、ライター時代に星占いの本を作ったことがあるんです。星座にはそれぞれ物語がありますが、星占いの先生が「星と星を結ばなければ物語にはならなかった」とおっしゃっていたのが印象に残っています。人と人も、緩く結ばれているというのは結構大事じゃないかなと思います。結ぶ線が細くても薄くてもいいんですけれど。
写真撮影=深野未季、メイク= TOMOMI・小池康友(K.e.y.)