文春オンライン

琴ノ若、若元春、霧馬山…初優勝・逸ノ城の陰で輝いた3人の若手力士たち《“元安美錦”安治川親方の7月場所総評》

けっぱれ! 大相撲――2022年7月場所

note

今場所一番の取り組みだった若元春対照ノ富士

 私のイチ推しは若元春で、力強く攻めも早くなりました。最後まで諦めず土俵下まで落ちていくことも多々あり、上位には欠かせない力士のひとりとなっていくでしょう。

 大関正代戦では、まわしをがっちり引きつけて正面から寄り切り、大関初挑戦で勝利を掴み取ります。勝っても負けても清々しく、これから人気も出てくるでしょう。

 その勢いのまま横綱照ノ富士との対戦は今場所一番の相撲だったのではないでしょうか。

ADVERTISEMENT

 照ノ富士を左四つに組み止め、上手を与えず攻め立てます。力が強いとは聞いていましたが、照ノ富士とがっぷり組み合って相撲を取れる力士がいるとは思いませんでした。一方的に若元春が何度も土俵際に攻め立てます。1分を超える熱戦になり、一瞬動きが止まります。お互いまわしを引きつけていたため、若元春のまわしの結び目が外れてしまいました。それを目にした行司がまわしを直すために止めに入る動きをしました。その動きと「待った」の掛け声が聞こえていた照ノ富士は動きを止めました。しかし、頭を照ノ富士の胸につけていた若元春には声が聞こえておらず、そのまま寄り切ってしまいました。協議の結果は、「待った」のかかったところからの再開です。再開後は照ノ富士の下手投げを残せず負けましたが、やり切った顔で花道を帰っていく姿に拍手が鳴り止みませんでした。

 たったの1分と思うかもしれませんが、立ち合いから動き続けることで息も上がり、苦しくなります。まわしは硬く厚みもあるため、掴む手の握力がなくなります。また、頭をつけたり低い姿勢でいると、相手の重さも加わりさらに体力が奪われます。それをたくさんのお客様の前で、気合の入った興奮状態でおこなうと体力がなくなるのは一瞬です。

 勝利者インタビューの時に、力士が肩で息をしていて呼吸が荒いのはそういうことなんです。

 序盤黒星が続き、カド番脱出は厳しいと思われた正代が別人のように盛り返し、日を追うごとに相撲内容が良くなり、連勝を重ねて勝ち越し。カド番を脱出しました。

 先場所から今場所と大関にしかわからないプレッシャーはあったと思います。頑張っていることもわかっています。しかし、負けが続くと厳しい意見が出ます。それでも相撲協会の看板力士である大関ですから、あれこれ言われる立場として結果を残さなければいけません。

 自分は大関になりたかったけど叶いませんでした。目標とする立場の人の残念な成績や態度を見ると悲しいです。期待していますよ。ケッパレ!

未完の大器が覚醒した瞬間

 さて、優勝争いは14日目を終え、3敗で照ノ富士と逸ノ城が並び、4敗で貴景勝が追いかけます。千秋楽の結果次第では、優勝決定戦か巴戦の可能性もありました。

 まずは逸ノ城が、勝ち越しのかかる宇良との対戦。立ち合いで張り差しから上手を取り、ジリジリとゆっくり前に出て宇良に何もさせずに万全な勝利で、照ノ富士と貴景勝の対戦を待ちます。この逸ノ城の勝利で貴景勝の優勝はなくなり、照ノ富士との優勝決定戦かと思われましたが、貴景勝が徹底した押しで照ノ富士に勝ち、あっさりと逸ノ城の優勝が決まりました。

千秋楽、宇良(右)を寄り切りで下した逸ノ城(左)©時事通信

 優勝の目が消えた大関が、横綱に対して意地を見せた戦いでした。

 入門時から大器と期待された逸ノ城の初優勝で、名古屋場所は幕を閉じました。

 名古屋場所後には久しぶりに巡業が開催されます。コロナ対策で力士と触れ合える形は変わると思いますが、間近で相撲に触れ合える機会を楽しんでいただけたら幸いです。

 そして最後にひとつだけお礼を言わせてください。

 5月29日に私安美錦の断髪式を開催させていただきました。2度の延期にも関わらず、たくさんの方々にご来場賜り、衷心より御礼申し上げます。現役生活を振り返り、改めて安美錦を応援していただいた皆様、支えてくれた皆様に感謝の気持ちを込めて、安美錦らしい断髪式ができたと思います。また、安美錦としての最後の花道に力を貸していただいた安美錦引退相撲事務局と家族のお陰です。ありがとう!

 これからは安治川親方として新たなステージに向けて歩き出します。

「まだまだケッパレ安美錦!」

 コロナ感染者が急速に増えているため、名古屋の美味しい食事は堪能できていませんが、毎年必ず食べている「しら河」のひつまぶしと、どじょうの天ぷらは食べて東京に戻りたいと思います。

 暑い日が続きますが、熱中症には気をつけて夏を乗り切りましょう!

 それでは、へば!(津軽弁でさようなら)

琴ノ若、若元春、霧馬山…初優勝・逸ノ城の陰で輝いた3人の若手力士たち《“元安美錦”安治川親方の7月場所総評》

X(旧Twitter)をフォローして最新記事をいち早く読もう

文春オンラインをフォロー