おぼろげながらつかんでいた自信は、確信に変わった。中日・岡林勇希外野手が覚醒の時を迎えている。3月のオープン戦で右手2本の指を負傷しながら、高卒3年目で念願の開幕スタメン。一時は不調にも陥ったが、見事に乗り越え右翼のレギュラーをつかんだ。7月の月間打率は驚異の3割7分5厘。リーグトップの好成績を残した。将来に向けて二塁守備にも着手。主力選手への階段を一段ずつ昇り始めた。
天真らんまんな振る舞いは、首脳陣、チームメート、球団関係者、メディア、ファン……なぜか皆をとりこにする。複数選手の証言を得ているが、ウォーミングアップなどで岡林から“先制攻撃”を受けた先輩たちが、思わず“反撃”する写真や映像がSNS上で出回ると「岡林くんをいじめないで!」「もっと優しくして!」と熱狂的なバヤシファンから熱いメッセージも届くという。
バンテリンドームでは、多くの応援タオルも目にするようになってきたが、「僕はスターじゃないんでね」と、本人はどこ吹く風。本拠地の最寄りにあるイオンでは、一人でスガキヤのラーメンを食べて「やっぱ誰にもバレないわ~」とウキウキでLINEのメッセージを送ってきた。スリルに味をしめた(?)のか、同施設のフードコートを再び訪れ、今度はスターバックスでお気に入りの「コールドブリューコーヒー」と、サーティワンでトリプルポップ(お気に入りのフレーバーはポッピングシャワー)を注文。「ほら、やっぱバレないんだって!」と、何だかうれしそうだった。
少々話は脱線したが、一時は打撃不振で打率が2割2分台まで下がったときもあった。前半戦が終了した際には「へばったときもありましたけど、そういう経験も後半戦やこれからのキャリアで生かすことができる。体力面などはまだまだだし、打撃の波もあるので、その波を小さくできるようにしたい」と振り返った。
2度のへばりから脱した“転機”
岡林は、今季「2度」へばった。最初は4月の中旬から5月中旬にかけて。「開幕からスタメンで使ってもらって無我夢中で試合に出続けていた。ちょっと歯車がかみ合わなくなってきて……」。4月17日の広島戦(マツダ)では初めてスタメンを外れた。「打てない自分に絶望しました。これくらいの打率で(シーズンが)終わるのかなぁなんて思ったりもした」。5月の試合前練習では、立浪和義監督からアッパースイング気味のティー打撃を伝授された。神宮の記者席から撮影した動画を本人に送ると「この感覚、すごく良かった」。やがて打撃の状態は上向いていく。
交流戦ではオリックス・山本由伸、ソフトバンク・千賀滉大、楽天・岸孝之といった球界を代表する投手からもヒットを放った。さらに左キラーのソフトバンク・嘉弥真新也も捉えるなど才能を開花させつつあったが、ビジターで悪夢の6連敗を喫した千葉、札幌遠征では16打席無安打。チームの借金が増え続ける中、自分の打撃も見失い、2度目のへばりがバヤシを襲った。
今年の転機となった1日がある。6月22日のヤクルト戦(バンテリンD)の試合前練習だ。立浪監督から呼び止められ、打撃フォームの改良を施した。シーズン当初は、あらかじめトップ(バットを持った両手を、弓矢のように一番引っ張ったところ)を作った状態からタイミングをとって打ち始めていたが、この日を境に、両手を体の正面に置いた。動きの大小はあるが、竜のヒットメーカー・大島洋平外野手のようなリズム、タイミングの取り方に近くなった。
右足を早めに上げ、捕手方向にバットを引き、トップを作って、課題だった二度引きを防止。丁寧に、優しく着地させるイメージで右足の先端を地面に着け、そこから粘り強く下半身でボールを呼び込む。自然と生まれる“割れ”と呼ばれる上半身と下半身が反比例した動きを、最後にクロスするイメージでバットをシャープに振り抜く。注意点は、バットは体の近くを通し、体を離さないこと。変化球で泳がされても、最後の最後まで粘り強くボールを呼び込んでいく。
指揮官からもらったアドバイスをもとに、森野将彦打撃コーチとともに少しずつ活路を見いだしていった。技術向上のために、仲間の客観的な意見も積極的に聞きにいく。岡林の打撃を陰で支えるのは、加藤翔平外野手。守備はもちろんだが、打席を見た感想を、ほぼ毎打席ごとに聞きに行く。加藤翔は以前、岡林についてこう話していた。
「あいつのセンスはすごいですけど、何よりすごいのは吸収力です。監督や首脳陣だけじゃなく、福留さんや大島さんといったすばらしいお手本がいて、ちゃんと話を聞いてしっかり自分のものとして表現できる。僕も、いろいろなアドバイスを上手に表現できたら違う野球人生だったろうなぁ……」