──高瀬先生は、常々「認知症の治療は薬1.5割、ケアが8.5割」とおっしゃってます。
高瀬 認知症の症状には、脳の細胞が壊れることによって直接起きる「中核症状」と本人の性格や心理状態、人間関係、環境などの要因が絡み合って起きる「周辺症状(BPSD)」があります。中核症状の代表的なものが「記憶障害」と「見当識障害」です。
──見当識障害というのは、今いる場所や、季節、今日は何月何日かわからないといった症状ですね。
高瀬 一方、「周辺症状」は、幻覚、不安、妄想、抑うつ、徘徊、せん妄、失禁、異食、暴言、睡眠障害など多岐にわたります。これらは治療やケアがまずいと、増幅されてしまう。そのために、家族は筆舌に尽くしがたいほど苦しむのね。自殺してしまう人もいるし、介護殺人まで起きているのが現状です。病院や高齢者施設から入院や入所を拒否されてしまうこともある。でも、「中核症状」は元に戻らないけど「周辺症状」は「薬とケアの最適化」で改善するし、消失することもあるんですよ。患者さんの身体状態や心理状態をきちんと理解したうえで、「周辺症状」を引き起こしている不適切な要因を取り除いてあげることが、患者さん本人にとっても、家族にとっても、とっても大切なことなんです。
──次回は、家族を苦しめる「周辺症状」を改善する「ケアの最適化」についてもっと詳しく聞いていきたいと思います。
#3「うつ病、自殺、介護殺人……家族も本人も不幸にならない認知症治療」に続く
高瀬義昌(たかせ・よしまさ)
1956年生まれ。医療法人社団至高会たかせクリニック理事長。信州大学医学部卒業。東京医科大学大学院修了。医学博士。昭和大学客員教授。麻酔科、小児科を経て、2004年東京都大田区に在宅医療を中心とした「たかせクリニック」を開業。著書に『これで安心 はじめての認知症介護』『自宅で安らかな最期を迎える方法』『認知症、その薬をやめなさい』『認知症の家族を支える』など。