“完全なる変態”の正体は…
そして演奏終了と共に理解する。なんということだろう、あの男前のヴォーカルは、おそらくは事務所の方針で解雇されたのだ。インディーからメジャーへ移籍するさいに、音楽的な理由でメンバーが代わる、これは間々ある話だ。しかしあのヴォーカルを解雇する理由は、まるで見当たらない。私は混乱した。果たして彼らにいったい何があったのか。
そして後日、「Vinyl」のMVに出演していた彼と、あの完全なる変態が同一人物であると知り、私の頭は更に混乱する。この2年半ほどの間に彼にいったい何があったのだろうか、現代の音楽業界はあの好青年を完全なる変態にまで貶めてしまう魑魅魍魎の跋扈する異界なのだろうか――、そして彼が完全なる変態と化して以後も、その歌唱力は衰えるどころか益々の艶を帯びており、変態が美しい声で唄うという現状に私の脳内は更なる混迷を極めていくのだった。これはもう彼らのライヴに赴いて、その全貌を目の当たりにするしかない。
そんな折、ロック・イン・ジャパン・フェス2022に、King Gnuが出演することを知る。しかも今年のロッキンには、連載本編でも取り上げたバンプにナンバガ、親交のある尾崎君のクリープハイプ、そしてかつて心酔したももクロまで登場するではないか――、問題は高額なチケット代の捻出である。私は我が顧問敏腕税理士の御手洗に連絡をした。
――御手洗君、これって経費でどうにかならんのかね。
――ロッキンでの体験を元に先生が原稿を書くのならば、経費にすることもできるでしょう。ところで先生、先月の経費として計上されているFANZAの月額見放題プランですが、こちらはいずれ原稿になるのでしょうか?
そんな訳で、私は意気揚々とロッキンの通し券を購入した。くしくも本稿が掲載される翌日、8月6日から今年のロッキンが始まる。本体験を原稿にしなければ“令和の脱税作家”となり違う意味で文春オンラインに登場しそうなので、ライヴの全貌はいずれ連載で記そう。して、King Gnuの総評をする。