芥川賞作家・高橋弘希さんが雑誌「文學界」にて好評連載中の「近現代音楽史概論B」。ご自身もバンド活動をされていた“自称音楽批評家”高橋さんが、思い入れのあるアーティストについて自由奔放に語りつくすエッセイです。

 今回は出張版として、文春オンラインにKing Gnuについての特別回を掲載します。CDTVを見た高橋さんが目を疑った“変態”の正体とは――。

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 本ウェブにエッセイで登場するのは3年ぶり4度目である、などと語ると、甲子園に出場する高校野球児のようだが、私はかつて町内子供野球チーム“間々宮パイレーツ”の不動のベンチメンバーだったゆえにスピリットとしてはあながち間違えでもない。

 確か前回は将棋エッセイを記し、ある将棋ファンからは好評を頂き、ある将棋ファンからは顰蹙を買い、ある将棋ファンからは「あなたの文章はゴキゲン中飛車ですな」などと謎の批評をされ、結果として朝日杯将棋オープン戦に招待され加藤一二三氏にお会いすることもでき本望である。今回も本稿の効力により、巡り巡ってメタリカのライヴに招待されることを期待している。

2019年、「白日」でブレイクしたKing Gnu

 して、本稿は文學界にて連載中の「近現代音楽史概論B」の出張編である。同時に編集部からは、次のような依頼を受けている。――分かってると思うが出張編というのは名ばかりで、本稿の目的は新刊(※)の宣伝である、音楽随筆はほどほどに新刊の宣伝を最優先せよ。成程、私も曲がりなりにもプロの作家、見事、編集部の期待に応えてみせよう。

2017年、King Gnuとの出会い

 連載本編ではゼロ年代の音楽を扱うことが多いが、私は自称音楽批評家として、10年代、20年代の音楽も期待感を持って常に注視している。そして今回取り上げるのはKing Gnuである。そう、私が彼らと出会ったのは、17年「Vinyl」のMVだった。なんの予備知識もなく本MVを観て、噂には聞いていたがとんでもないバンドが現れたと驚嘆した。センス溢れる楽曲、斬新な編曲、高度な演奏技術、特にヴォーカルの歌唱力は刮目もので、その甘くときに掠れるハイトーンの伸びやかで艶のある声質は全盛期のアダム・レヴィーンを想起させる。しかも俳優と見間違うほどの端正な顔立ちに妖艶なる色気――、私は確信した。そしてなんでんかんでん川原社長の口ぶりで、一人洩らした。

 ――これは売れる。

King Gnuのヴォーカル・井口理(右から2人目)©産経新聞社

 実際その後、King Gnuは「白日」にて大ブレイクしたことを知り、自身の見る目に狂いはなかったと満足した訳だが、数か月後、偶然にもCDTVで彼らを観て愕然とする。テレビを点けると、ちょうど彼らのスタジオライヴ中で、演奏曲はすでにアウトロに入っており、ヴォーカルの立ち位置では、髭面眼鏡に半袖短パン姿の、謎の珍奇なる男が、謎の珍妙なる踊りを披露しており、その姿はどう好意的に見ても完全なる変態である。この変態は、いったい何奴――。