15歳でBLに出会ったテジエさんが、専門イベントを作ろうと決心したのは19歳の時だった。
「2009年のジャパンエキスポで『Yaoi』のファンを集めた30人ほどのオフ会がありました。当時はBLが趣味の仲間と集まる機会も少なく、ねえあれ読んだとか、この作品おもしろかったよとか、そういう会話をすることも難しかった時代で、本当に楽しい時間でした。ただこの時私たちは『I love yaoi』と書いたバッジをしていたんですが、それを見た他のマンガ好きに『あいつらやおいなんか読んでるぞ、まじかよ』と言われてショックを受けたんです」
BLがフランス社会の中で偏見にさらされていることは知っていたテジエさんも、“マンガ仲間”からのこの露骨な偏見にはショックを受けた。
「マンガを読んでる時点で、当時は彼らだって社会からオタク視されていたじゃないですか。それなのに私たちのことを馬鹿にするなんて……。フランスでは、みんな自分の趣味を愛する権利があるはずです。あまりに頭にきたので、『Yaoi』のファンが偏見を気にせず胸を張って自分の趣味を語り、他のファンと交流できるように専門のイベントを作ることを決意しました」
こうして生まれたのが「Y/CON」である。雰囲気としては、コミコンの縮小版を想像していただけるといいかもしれない。2100平方メートルの会場を2日間借し切り、BL漫画や小説の原作者を招いてファンとの交流をするとともに、コスプレやカラオケ大会、アニメの上映などのイベントをおこなうのだ。既に開催7回を数え、2011年の初回は401人だった参加者も「みのりの手」等の作品で知られるスカーレット・ベリ子さんを日本から招いて開催した2018年には2500人まで増えた。第8回は今年の12月に予定されており、日本のみならずアメリカやヨーロッパ中からBL作家が参加する予定だという。
フランスでBL人気がぐっとのびたきっかけは、やはり日本発のあるトレンドだったという。2012年からBL作品を手がける出版社「Taifu(台風) Comics」で編集者をしていたギヨーム・カップさんは、その成長過程をこう語る。
「当初のBLは『性的なシーンだらけで読み物としては面白くない」というマイナスのイメージがありました。しかし2010年ごろから日本で新しい世代の作家が次々と生まれ、作品が多様化したことでファン層も拡大しました。フランスで特に人気が高いのはキヅナツキ、紀伊カンナ、ヨネダコウなどの作家たち。その人たちがBL×サイエンスフィクション、BL×音楽のような他ジャンルの要素を取り入れ、男性同士のセックスシーンが続くだけではない作品が増えたんです」