フランスでBL作品を扱う出版社はTaifu Comicsを含め主に4社あり、国内でもBL作家は増えつつあるが流行の発信地は今でも圧倒的に日本だという。
「BL業界の編集者はみんな、日本でどんなものが売れているかをいつも気にしています。BL専門の口コミサイト『ちるちる』や、日本地域のアマゾンのランキングをチェックするのもマストですね」(同前)
フランスでのBLの広がりを語るうえで、性的マイノリティに対する理解の変化とLGBT文化の一般化を無視することはできない。フランスにおけるBLの歴史についての論文を書いたローランさんによると、フランスのBLファンコミュニティは、1990年代終盤にネット上で形成されはじめていたという。
「日本の作品を勝手に翻訳してFAXで回し読みしたり、メーリングリストを作って自分たちで同人誌を作りはじめたコミュニティがあり、それにTonkam (フランスで漫画の翻訳を手がける出版社のひとつ)が目をつけて、正式に翻訳・出版することになったという流れです。アンダーグラウンドなところからスタートしたのは日本と共通ですね」
しかしそれから20年ほどで、フランスのLGBTを取り巻く環境は大きく変わった。2013年に同性婚が合法化され、社会全体が多様性を認める方向に大きく舵を切った。
以前は特別視されていたLGBTに関する作品も、もはやメジャージャンルの1つだ。BLマンガは女性向けのジャンルと思われがちだが、この流れの影響が生み出す新たな需要をしっかり受けとめているという。
「フランスのBL読者2000人に調査をしたのですが、実は過半数が性的マイノリティの人々でした。異性愛の女性も多いのですが、それ以上にゲイ、レズビアン、トランス男性(出生時の性別は女性だが性自認が男性の人)が多い。他の人に性的欲求を抱かないアセクシャルの人が含まれていたのも興味深いです。要するにヘテロ男性とトランス女性以外は読んでると言った方が早いかもしれません」(ローランさん)