自身もトランス男性であるローランさんは、トランス男性がBLに手をのばす理由はよくわかるという。
「トランス男性は『どういう男性になりたいか』を自分で考える必要があります。その時に、フランスで長らく主流だったマッチョな強い男性像とは全く違う男性を描くBL作品が参考になるんです。BL作品の登場人物はよく泣くし、とてもロマンチックで傷つきやすい。だから『強くなろうと思えない人』には親近感があるんです」
一方、BLマンガがゲイの間で急速に広まったのには、『バディ』などの日本のゲイ雑誌が近年休刊してそこで活躍していた作家がBLに流れ込み、以前より毛深くマッチョな男性的な登場人物を描く作品が増えたことも影響しているという。
「強くマッチョな男性」という価値観をどう作り直すかはフランスでも大きな注目を浴びるテーマで、BLが多くの女性に支持される理由にも影響している。
「今の女性たちは、女性の体が男性目線の単なる性的な対象として描かれるのにうんざりしてきているんじゃないでしょうか。BLは女性をそのストレスから解放したと言えるかもしれません」(同前)
フランスでの人気拡大がしばらく続きそうなBLマンガだが、BLマンガに多い“ある展開”が徐々に問題になりつつあるという。それは登場人物が、相手の同意なしに性的な関係に至るケースが多いことだ。
「性行為に同意が必要なのは異性愛でも同性愛でも同じです。たとえフィクションの中であっても、全てが許されるわけではない。たとえ日本で人気がある作品でも、強制的に関係を持つ作品の翻訳は慎重に見極めています」(前出・カップさん)
まだそれが理由でフランスでの翻訳・出版がストップした事例はないというが、今後はますます重要な基準になっていく可能性が高いという。
「レイプで始まる恋愛を肯定することはできません。BLは今までマイナーなジャンルだったのが、出版社や編集者の努力でやっとここまで市場が育ってきたのです。性的合意をめぐる議論で悪いイメージがついてしまったら、BLというジャンルの可能性ごと潰してしまうことになる。それは非生産的だと思いませんか」