弁護士からクス子へ/特別な理由がなくても離婚はできます
目の前の生活が何となく流れていく中で「嫌だ」という感情を我慢して誤魔化してやり過ごしている人が多いように思います。また、夜の生活のことを初対面の弁護士に話すことの躊躇や、そもそも夜の生活のことが弁護士へ相談すべき法律問題なのかという先入観を持っている人も多いものです。ですから、クス子さんのような人が相談に来ることはまれです。
ところが実際に離婚の相談に来た人から「結婚した夫婦が夜の生活をするのは『当たり前』なのに、それを苦手だとか気持ち悪いだとか思う自分のほうがおかしいのでは」とクス子さんのような感情を聞かされることは少なくありません。たしかにテレビのワイドショーや週刊誌に出てくる有名人の離婚は、不倫で裏切られたとか、借金を抱えてとか、そうでなくてもお互いの生活のすれ違いとか、目に見える形がある理由ばかりです。やっぱり特別な離婚の理由がないと離婚はできないのでしょうか――。
結論から言うと、特別な理由がなくても離婚はできます。離婚に必要なのは、離婚という結論をふたりが受け容れ署名押印した離婚届の紙1枚、それを役所に出すことだけです。「私はあなたの髪型が嫌いで離婚したい」「うんわかった。それなら離婚しよう」と夫婦がふたりで書いた離婚届を役所に持って行ったとしても、窓口で「そんな理由じゃ離婚は受け付けないよ!」と言われることはありません。離婚はどんな理由でも、いや、理由なんてなくてもふたりが離婚したいと思って、それが合致すればいつでもできるのです。
ですから「離婚できたら」が頭に浮かんだときは、離婚の理由なんてとりあえずはよそに置いておいて、まずは「離婚すれば自分の生活はどうなるのか」、そして「相手はそのための離婚に同意してくれるのか」を考えることを優先したほうが良いのです。3か月後、半年後、1年後の未来にいる「離婚した私」を思い描いて、そこにどうすればたどり着けるのかを考えましょう。『離婚は、未来の私のシアワセの第一歩……ありがとう、弁護士さん』なんてキャッチコピーを日弁連(日本弁護士連合会)の広報室にプレゼンしたい気分です。「でも、ちょっと待って。よく『不倫したら即離婚』とか『別居○年で離婚できる』とか、巷では離婚するためには条件が必要と言ってるじゃない。あれはどういうことですか?」という疑問、ありますよね、わかります。ここで言われる「不倫したら即離婚」「別居○年で離婚できる」というのは、いずれも裁判離婚で意味を持ってくる話です。
離婚には、協議離婚、裁判離婚、調停離婚、審判離婚……と種類があるのですが、さっきから私が話をしている理由無制限の離婚届の離婚、つまり理由なんてなくても離婚できるというのは協議離婚という種類の離婚です。これは民法763条という法律に書いてあります。「夫婦は、その協議で、離婚をすることができる」とあり、要するに話し合いさえ整えば、いつでも離婚ができることが保障されているのです。未成年の子供がいる場合は、離婚について話し合いが整っても子供の親権者をどちらに定めるかの話し合いが整わない限り離婚届は出せませんが、それでも離婚のための特別な理由が必要なわけではありません。