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「金だらい持ってきて」は「カナダドライだよ」

加藤 お袋に会ったときの第一印象はどうだった?

関口 いやぁもう、怖かった。だって大スターだから。でもお話をしてみたら、優しくてね。

加藤 お袋はいつも、「おのりはケセラセラだ」と言ってたね。

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関口 ああ、何を言われても「大丈夫ですよ」と答えていたら、「大丈夫のおのり」と呼ばれるようになったの。そのうち「ケセラセラ」に変わったんです。

加藤 お袋にとって、そのくらいが楽だったんでしょう。いてもらわなくちゃ困る存在だったのは、間違いない。

関口 でもまあ失敗ばかりでしたよ。「おのり、あれはどういう歌だっけ?」と訊かれて「それはですね」と歌ったら、「余計にわからなくなったわ」って言われて(笑)。それ以来、テープにお嬢さんの歌を録音して、巡業に持って行くようにした。何かあればさっと出せるように。

辻村 歌わなくて済むように編み出した方法だね。

関口 あと、よく聞き間違えもしていた。お客さんが見えたとき、お嬢さんから「金だらい持ってきてちょーだい」って言われたから「誰か気持ち悪くなったのかしら」と思って、急いで探して持って行ったの。そうしたらみなさんキョトンとしたお顔で、お嬢さんが「カナダドライだよ」って。

関口範子さん ©文藝春秋

加藤 「ジンジャーエール」と言ってくれればよかったんだ(笑)。

関口 ほんとに大失敗……。

加藤 お袋が気分よくステージに上がり、いい仕事をする上で、身の回りの細かいことを、かゆい所へ手が届くようにやってくれる人の存在は大事だったと思うよ。現場に随行していたのんちゃんとちーちゃんは、僕から見てもいいコンビでした。

 あさちゃんは、僕が物心ついた2歳ぐらいのとき、ウチへ来たんだったね。新聞に「お手伝いさん募集」と出した広告を見て。

辻村 私もただの大ファンだったので、とにかくお嬢さんの傍にいられることが嬉しくてね。「ああッ! ひばりさんだッ!」ていう感じでした。ところが仕事を始めるや「料理は任せたから」と言われたので、ビックリ。ちゃんとした調理師さんがいて、横で洗い物をしたり野菜を切ったりすればいいと思っていた。

関口 前任の方が辞めてしまったからね。こちらに来るまで、料理は得意じゃなかったのよね。

辻村 あわてて料理本を読んだり、テレビの料理番組を観たり、四苦八苦しました。お鍋に残った汁を舐めてお好みの味を覚えたりもして、勉強しました。

 加藤 ずいぶん頑張ったね。