世界経済フォーラムが発行する『グローバル・ジェンダーギャップ・レポート』で、日本は今年も116位(146カ国中)という先進国最下位の悲惨な順位だった。

 毎年その低い順位を巡って議論になる一方で、ジェンダー問題に取り組む人の中にもこのレポートに対して距離を取る人もいる。

 その名の通り「経済」に主眼を置いたこの調査で、順位はどのようにつけられているのか。そして日本が圧倒的に「遅れている」と評価されている分野はどこなのか。「フェミニズムはもういらない、と彼女は言うけれど」の著者である高橋幸さんは、現状を理解するためには2000年代以降に世界で何が起き、日本で何が起きなかったかを理解する必要があるという。

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 前編の「政治」に続き、後編では日本のジェンダーギャップが大きいもう1つの分野「経済」の解説をしてもらった。(全2回の2回目/最初から読む

大企業のトップに女性がいない問題

「リーダー的地位」をめぐる男女間の不平等を是正するため、政治面では議員に対するクオータ制が導入されてきた。同様の目的のもと、経済面では、上場企業の「取締役会に占める女性の割合」を上げるためのクオータ制の導入が進んでいる。

 まず気になるのは、「クオータ制の導入」といっても、政治的領域と経済的領域では原理的な違いがあるということだろう。

 たしかに、政治の場面でクオータ制を導入するのは、理にかなった方法だ。国民の「代表」である国会議員が男性に偏っていて、人口の半分を占める女性の意見を反映できていないという問題は「政治」的な問題であり、それゆえ立法によるクォータ制導入という政治的な手段を通して解決していくのが正当だと思われる。

 しかし、民間企業の人事、しかも企業の中核となる取締役会の人事に関して、「国」が介入することはできるのだろうか。公私二元論の原則はどうなっているのか。

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 結論から言うと、行政機関としての「国」が民間企業に対して勝手に口を出すことはできないが、国民や市民の合意に基づいた立法を通して「国民」や「市民」が大企業のあり方に口を出すことはできる。大企業が人々の生活に与える影響力の大きさと社会的責任の大きさを考えれば、国民や市民、住民の意見は当然反映されるべきだろう。

 EUはこのような考え方で、上場企業を対象にクオータ制を義務づけてきた。欧州議会は2013年に「女性役員クオータ制指令(Women on Boards Directive)」を採択。域内の上場企業は、非業務執行取締役(社外取締役や監査役のことを指す)に「最低限40%の下位代表(under-represented)の性」を含むことが求められることになった。EU各国はこの指令に対応するための国内法を整備する必要がある(注1)。

 とはいえ、すでにノルウェーは早くも2003年に同様の国内法を成立させていた。フランス、オランダ、ベルギー、イタリア、スペインといったEUの主要国も、この指令の成立を見越して2011年に国内法を整備し、ドイツは2015年に「女性の指導的地位法」を可決して対応を済ませた(注2)。

 働き続ける女性が一般化した社会のなかで大企業トップ層に女性が少ないことを問題視する欧州市民の意向が、このような動きからも見て取れる。