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 これには参った、先ず身内から口説かねばならない。私のアイディアが当たるかどうか、こうなれば自分で責任をもってやってみる以外にないと、自らプロジェクト・マネージャーを名乗り出たわけである。勿論、中には大変な賛同者もいて早くも「ウォークマン」という変な名がつけられた。英語的にはおかしな言葉で英語国の販売担当者は絶対にいやだといい出し、英国ではストアウェイ、その他の米国を含んだ英語国ではサウンド・アバウトと命名されることになった。ところが日本での爆発的人気があっという間に世界中に伝わってしまい、日本式英語の「ウォークマン」が世界中どこでも通用する様になってしまった。

1979年に発売されたウォークマンの1号機「TPS-L2」 ©文藝春秋

スペイン国王からも「ウォークマン愛用していますよ」

 売れる筈だと信じた私の考えは間違っていなかったわけである。先般来日されたスペインのカルロス国王も私の素性がおわかりになるなり、「ウォークマン愛用していますよ」とのお声を頂いた。カラヤン、ズービン・メータ、ローリン・マゼールなど超一流の指揮者からももっとウォークマンがほしいのだが何とかしてくれと電話がかかってる。音楽関係者は勿論、今や音楽を愛する人々が、世界中でこのヘッドホンをつけて、ひとり静かにステレオを楽しんでいる。図書館での勉強に、これを愛用する「ながら族」の学生も多いそうだ。

 ヘッドホンをつけると耳が悪くなると言う説もあるが、それは音量の程度の問題である。あのスピーカーを無茶苦茶な音量でならすのは、他人迷惑だし殆どのエネルギーは当人の耳に入るより壁や床や隣り近所をゆるがせることに浪費されてしまう。その点、ウォークマンは騒音公害をへらし、同時に耳に必要な音声エネルギーしか使わないのだから、いわば省エネルギー方式のステレオだといってもよいだろう。

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 ラジオもテレビも、一人一人のもの、いわばパーソナルなものになって来た時代、「ウォークマン」は「ステレオ」を「パーソナル」なものにしたという意義をはたしたものとひそかに自負しているのである。