「もう、普通のお産と同じですから、一日ではとても終わりません。4日とか5日かけて、薬で徐々に陣痛を起こして、子宮口を広げて、やっと取り出すんです。21週前後だと、体長は十数センチですが、24、5週にもなると、30センチ程になって、男女もはっきり分かる。立派な人の形になります。息もします。生きていますから。
院長は、そういう手術の時には水を張った『ベースン』と呼ばれるたらいを傍らに用意していました。赤ちゃんは、呼吸した瞬間に泣くんです。肺が動くと泣くので。やっぱり、お母さんには(泣き声を)聞かせたくないじゃないですか……。だからその前にこうしてうつぶせにして、水にぺたっと浸けるんです。私はそれだけはできなかった……」
この時、太田院長は、小誌の取材に対して、違法中絶や診療報酬の不正請求を否定した。
さらに、「黒いマタニティクリニックに埼玉県が立入検査に入った!」(2月21日号)、「黒いマタニティクリニック 母子突然死と謎の中国人 遺族が実名告発」(3月7日号)の続報を掲載。
記事が出た約4カ月後の2019年6月、太田マタニティクリニックは、「令和レディースクリニック」と名称を変更し、太田氏も院長から退いた。
メディアを訴えない“告発潰し”の裁判へ
そして、同年7月9日、取材に応じた助産師たち3名を訴えたのだ。記事を掲載したメディアを訴えない一方で、一般人で裁判に慣れていない取材協力者を標的にすることは、“告発潰し”につながる卑劣な手法だと小誌は判断。裁判に補助参加し、代理人は文藝春秋の顧問弁護士がつき、裁判費用も文藝春秋が負担することを決めた。
裁判の過程では、太田氏側が、裁判所を通じて、(1)謝罪、(2)解決金の支払いを求める和解案を提示。原告弁護士は「応じられない場合、医師法、看護師法に基づき、告発せざるを得ない」とした。助産師たちにとって、国家資格を剥奪され、働けなくなることは、恐怖だったが、事実は曲げられないと和解を拒否。
助産師や看護師、取材を担当した「週刊文春」記者も法廷に立って、経緯を詳細に証言した。