7月14日、さいたま地裁である判決が下された。原告は埼玉県日高市にある産婦人科「太田マタニティクリニック」(現・令和レディースクリニック)の院長だった太田克行氏。被告は、助産師や看護師の女性3名だった。被告が訴えられたのは、「週刊文春」の取材に応じて、“違法堕胎”などが起きている病院の診療の実態を明かしたことだった。
太田氏は、「週刊文春」に事実無根の記事が連続して掲載されたのは、助産師たちが取材に応じたためだと主張し、提訴したのだ。ところが、太田氏は、記事を掲載した「週刊文春」は提訴していない。“事実無根”の記事と主張しながら、メディアを訴えず、取材協力者のみを訴えた異例の裁判を検証する。
週数オーバーの妊婦への違法中絶が頻繁に行われていた
2019年2月、「週刊文春」は、「赤ちゃんを水に浸け、窒息させた 黒いマタニティクリニック 違法中絶を告発スクープ!」(2019年2月14日号)と題する記事を掲載した。母体保護法では、満22週以降の中絶は禁止されているが、クリニックでは週数オーバーの妊婦への違法中絶が頻繁に行われていたことを、複数の証言に基づいて報じたのだ。
助産師たちの証言の内容は衝撃的だった。
「長年、院長の手で月に1~2件ほど中絶手術が行われていました。よそでは堕ろせないものも、太田はみんな受け入れてましたから。6カ月(20~23週)、7カ月(24~27週)……昔は8カ月(28~31週)の子の堕胎をしたこともありました。申し送り欄に週数オーバーの記載があると、正直“嫌だな”と思いましたが、雇われている身ですから、指示に従うしかありません」