入手先は意外な人物
逮捕後、娘は覚醒剤の所持と使用は素直に認めたものの、ブツの入手先については頑として供述を拒みました。説得を続けて何とか全面自供に至ったのですが、驚いたことに、ブツの入手先は母親の従兄弟のトシ(38歳)でした。しかも、彼は母親が経営するスナックの従業員だったのです。母親は夫が急逝した後、家業のスナックを引き継ぎます。トシはその頃から店を手伝ってきた、いわば母親の片腕のような存在。
当然ながら、母親とは毎日顔を合わせ、娘を交えて家族ぐるみの付き合いをしていました。ところが、トシはマリに下心を抱き、母親に内緒で誘い出し、あろうことか覚醒剤を教えた。マリは自分から覚醒剤をねだるようになり、トシはその代償として肉体関係を求めたのです。私たちは早々にトシを逮捕。彼は覚醒剤に手を染めて3年になるベテランで依存状態にはありましたが、見かけは全く普通の男でした。
「トシを雇ってからの7~8年、週に5日は顔を合わせていました。それでも、覚醒剤をやっているとは思わなかった。アルバイトの女子大生に手を出すような、女癖の悪いところはありましたが、仕事はテキパキこなしていたし、仕事上の問題はありませんでした。従兄弟なのでお給料も多めに渡していたのに、なんでこんな畜生みたいなことを!」と、母親は泣き崩れました。
母親が二重、三重のショックを受けたことはお分かり頂けるはずです。愛する娘が覚醒剤に溺れ、その原因は自分の従兄弟にあった。しかも、それに気づくことができなかったわけですから。トシ本人は次のように後悔の弁を述べています。
トシが犯した“悪魔の所業”
「スナックの常連客の男からシャブを買い続けて、出勤前に毎日使っていた。集中力が増すからパチンコに行くときやセックスのときも欠かせなかった。年々、大人の女に成長する従姪のマリに性的魅力を感じ、自分の虜にするために“ダイエットに効く”と半ば騙すようにシャブを教えた。ホテルに連れて行くたび少量のシャブを渡していたが、マリは若いせいかシャブに溺れるまで時間はかからなかった。いま思えば自分がやったことは悪魔の所業としかいいようがない。取り返しのつかないことをしてしまった……」
トシは週2日アルバイトをしていた女子大生にも定期的に覚醒剤を渡していました。この女性にも覚醒剤を教えてセックスを強要していたのです。実に卑猥で卑劣な男です。それに加えて注目すべきは、ここまで身近で覚醒剤が蔓延していても、母親が異変に気づけなかったことです。薬物使用者を周囲が見抜くことはそれほど難しいのです。
実際、麻薬取締官であっても、そう簡単に薬物使用者を判別できるものではありません。事前に捜査対象が覚醒剤に手を出しているという情報があるからこそ、実際に対象の言動や振る舞いを目にし、さらに過去の経験を踏まえて「これはかなり嵌っているな」と推測できるのです。
もし子どもが薬物を使用していたとして、異変を察知できるのは同居している親御さんくらいのものです。子どものニュートラルな状態を知らなければ、些細な変調に気づくことはできません。「お金を無心する」「暴言を吐き、嘘をつく」「生活態度が乱れる」といった二次的な行動に「何かおかしい」と感じることで、はじめて薬物への疑念が生じるのです。