近年、覚醒剤、MDMA、コカイン、大麻に手を出して検挙される大学生や高校生、中学生が急速に増えている。スマホやSNSが普及したことで、“子ども”でも多種多様な薬物情報を難なく得ることができ、しかも手軽に入手できてしまうのが要因だ。
ここでは、厚生省麻薬取締官事務所(通称:マトリ)に採用され、薬物捜査の第一線で活躍した瀬戸晴海氏の著書『スマホで薬物を買う子どもたち』(新潮社)から一部を抜粋。身近に潜む薬物乱用者の危険性について、瀬戸氏が過去に検挙した事例を交えて紹介する。(全2回の2回目/1回目から続く)
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薬物乱用者は見た目で分かるのか
企業のコンプライアンス研修に参加すると、次のような質問をよく受けます。
「薬物を使用している人は“よれている”とか“感情の起伏が激しくてすぐに怒り出す”と聞きますが、実際はどんな感じなのでしょうか。薬物使用者を見抜く方法はありますか」
社員が薬物事犯で逮捕されれば一大事でしょうから、企業の人事や業務管理の担当者にすれば切実な問いかけだと思います。では、現実に、外見や挙動だけで薬物使用者を見抜くことは可能なのでしょうか。端的に申し上げると、答えは「ノー」です。
一般の方が想起する薬物乱用者の姿は、映画やテレビドラマで描かれる誇張されたイメージに過ぎません。たとえば、アルコールを摂取すると呼気の臭いや酩酊状態でそれと判断できますが、いわゆる違法薬物の場合、よほどのことがない限り周囲は気づきませんし、疑いすら抱かないと思います。
そもそも、会社の部下が朝からふさぎ込んでいる、あるいはやけに饒舌だったとして、それが薬物に起因すると考える上司は少ないでしょうし、実際、その原因は薬物と無関係なことが大半です。しかし、かなり近しい間柄であっても、薬物使用に気づかない例は枚挙にいとまがありません。
18歳の短大生が起こした覚醒剤事件
ずいぶん前に、ある母親からの相談を受けて、彼女の18歳の娘・マリ(当時短大生)を覚醒剤事件で逮捕したことがあります。娘が夜も寝なくなり、食事をまともにとらずに痩せ細って、大学にも行かなくなった──。こうした変化を目の当たりにして、不安を覚えた母親は娘の部屋や持ち物を調べます。
すると、バッグのなかから焦げ跡の付いたガラスパイプや、少量の白い粉末が入ったポリ袋が見つかった。娘に問い質したところ、「勝手に人のバッグを見るな! あんたには関係ないだろ、うるさい!」と逆ギレする始末。動揺した母親が私どもの門を叩いたことで逮捕へと結びつきました。